精肉販売を始めるためには、まず”精肉販売許可”の取得が必要です。食肉は食中毒や衛生面のリスクが高いため、食品衛生法に基づいた許可申請や設備要件をクリアしなければ販売を始めることができません。
本記事では、精肉販売許可の取得条件・必要書類・手続きの流れを体系的に解説します。さらに、許可取得後にやるべきことや、実店舗とオンライン販売を組み合わせた販売戦略まで詳しく紹介します。
精肉販売許可とは?押さえておきたい法的基礎

精肉販売に必要な許可制度の概要や関連する法的根拠について理解することは、事業運営に欠かせません。
精肉販売を行うためには、食品衛生法に基づく営業許可を取得する必要があります。この許可は保健所が管轄し、施設や衛生管理が適切に整備されているかを審査したうえで交付されます。
特に、生の肉を取り扱う現場では適切な冷蔵設備や清掃状況が求められ、法的にも厳格にチェックされます。食品衛生法は国民の健康と安全を守るための法律であり、違反があった場合には営業停止や罰則が科される可能性もあります。
参考サイト:東京都保健医療局 改正食品衛生法の営業許可と届出(令和3年6月1日から施行)
食品衛生法と精肉販売の関係
精肉販売許可は、厚生労働省所管の食品衛生法に基づき、食中毒などの衛生リスクを防止するために設定された制度です。
公衆衛生を守る観点から、食肉を扱う際は都道府県・保健所から営業許可を取得する必要があります。
食肉は生鮮食品の中でも特に鮮度管理が重要であり、一度衛生管理を誤ると食中毒被害が広がるリスクが高いため、一定の施設基準・衛生体制を満たすことが求められています。
食肉販売は公衆衛生上のリスクが高いため、法律に基づく厳格な管理と許可制度が設けられています。精肉販売業を営むには、必ず事前に許可を取得しましょう。
食肉販売業・食肉処理業・食肉製品製造業の違い

同じ”肉を扱う仕事”でも、法律上は下記のような業態が存在し、求められる許可の種類や要件が異なります。
| 業態 | 内容 | 特徴 |
|---|---|---|
| 食肉販売業 | カットされた精肉を仕入れて、小売りや業務用卸を行う形態 | ・いわゆる精肉店やスーパーの精肉コーナーなど ・最も一般的な形態で、比較的参入しやすい |
| 食肉処理業 | と畜場での解体処理 | ・頭数ごとの処理設備や基準を満たす必要がある ・大規模・専門的な設備が必要で一般的な小売店や飲食店とは別 ・より厳格な衛生管理基準と専門知識が求められる |
| 製品製造業 | ハム・ソーセージなどの加工食品を製造 | ・加工用の調味設備や加熱 ・冷却装置など製造ごとに異なる基準が必要 ・製造工程に応じた特別な許可が必要になる場合もある |
事業計画に合わせて、どの業態に該当するか最初に確認し、適切な許可申請を行いましょう。
参考サイト:厚生労働省 営業許可業種について
精肉販売許可を取るための条件・必要書類

精肉販売の営業許可を受けるためには、施設面や書類面の要件を満たす必要があります。許可取得には、まず営業する施設が自治体の定める衛生基準をクリアしているかが第一のハードルです。
保健所による検査では、店内の構造や動線、冷蔵設備の動作状況など、安全に食肉を取り扱える体制が整っているか細かく確認されます。施設が基準を満たしていても、必要な書類が不足していると申請は通りません。
なお、具体的な申請要件や手続きは自治体によって異なる場合がありますので、営業予定地の自治体ホームページや保健所で最新の情報を確認することをおすすめします。
参考サイト:東京都保健医療局 食品関係営業許可申請の手引き
衛生管理上の施設要件
保健所が「この施設なら安全に精肉を扱える」と判断するための設備基準が設定されています。
| チェックポイント | 具体的な要件 |
|---|---|
| 作業場・冷蔵庫の温度管理 | 食中毒防止のため、冷蔵・冷凍設備の性能や温度計の設置など |
| 床や壁・天井の素材 | 水洗い・消毒がしやすい素材か、油汚れに強いか |
| 換気設備・排水設備 | 肉の臭気や湿気を溜めない設計にする |
| 虫・ネズミなど防止策 | 密閉性や防虫カーテンの設置など |
また、解体やカットを行う場所と顧客が立ち入る販売スペースをきちんと分離することも重要です。インターネット販売など配送を前提とする場合は、梱包スペースや温度管理設備をより厳格に運用する必要があります。
申請書類の内容
許可を申請する際には、主に以下の書類を提出します。(自治体により若干異なります)
- 営業許可申請書
- 施設の平面図・設備図
- 食品衛生責任者の資格証
- 水質検査成績書(井戸水を使用する場合など)
- その他、自治体指定の書類
営業許可申請書は、営業所の名称や所在地、事業内容などを詳しく記入する書類です。施設の平面図では、冷蔵庫や作業台の配置を明示し、衛生的な動線設計であることを示します。
書類に不備があると許可取得が大幅に遅れる可能性があります。事前に保健所へ「どの書式が必要か」を確認しておくことをおすすめします。
食品衛生責任者の設置
営業許可を取得するためには、「食品衛生責任者」を置くことが義務付けられています。責任者は食品衛生法の基礎知識を持ち、店内の衛生管理を監督する役割を担います。
取得方法として、公的機関が実施する講習会を受講し、修了証を取得する方法があります。調理師や栄養士など、食品衛生に関する国家資格を持っている場合は、改めて講習不要の場合もあります。
特に精肉の取り扱いでは、温度や取り扱い方法によって細菌やカビなどの繁殖リスクが高くなるため、日々の管理を徹底することが不可欠です。
オーナー本人でも、従業員のなかから選任しても構いませんが、常駐できる人が責任者となるのが望ましいでしょう。
参考サイト:厚生労働省 食品衛生責任者について
精肉販売許可取得までの流れ

実際に精肉販売許可を取得するまでの手順を、事前準備から営業開始まで段階的に確認します。許可取得のプロセスは、工事前の計画段階で保健所へ相談するところから始まります。
特に新規で店舗を構える場合は、設計図の段階で衛生基準を満たす構造になっているかをチェックしてもらうことで、後からのやり直しリスクを減らせます。
事前相談(保健所・行政機関)
施設の設計や工事に着手する前に、まずは管轄の保健所に相談しましょう。
「平面図を見てもらい、どのような設備が必要か」「既存施設を改装する際の注意点」などを確認しながら計画を進めると、後でやり直し工事が発生するリスクを減らせます。
地域ごとに衛生要件が異なる可能性があるため、どういった施設基準を満たせばよいか具体的に確認しておくと安心です。
参考サイト:厚生労働省 食品等事業者団体が作成した業種別手引書
必要書類の準備
前述した申請書や図面のほか、店舗の改装が完了したら写真も用意しておくとスムーズです。特に以下の点は申請時に不備が発生しやすい項目ですので注意が必要です。
- 施設の配置図・内観写真
- 使用する冷蔵庫やカッター機器の仕様書(必要な場合)
- 食品衛生責任者資格の写し
必要書類は多岐にわたるため、リストアップを行い、ひとつずつ着実に準備することをおすすめします。
書類の不備があると修正に時間がかかるため、計画的に進めましょう。
保健所への申請から審査・施設検査
書類が整ったら、保健所へ申請を出し、審査待ちとなります。審査が通ると、保健所職員が実際の施設へ立ち入り検査に来ます。
【施設検査時に見る主なポイント】
| 項目 | 確認内容 |
|---|---|
| 設備の設置状況 | 冷蔵庫・シンク・換気扇が計画どおりに設置されているか |
| 作業動線 | 安全か、衛生的に問題ないか |
| 防虫・防鼠措置 | 適切に行われているか |
ここで基準を満たしていない部分や改善点が見つかった場合は、再度修正を行ったうえで再検査が必要となるケースもあります。
大きな不備がなければ数日〜数週間後に「営業許可証」が発行されます。
許可証交付と営業開始
審査に問題がなければ営業許可証が交付され、いよいよ営業開始が可能になります。許可証は店舗の見やすい場所に掲示することが一般的なルールです。
有効期限について、多くの自治体では5〜6年ごとに更新制となっており、更新時期が近づいたら再度、保健所から通知が来る場合が多いです。
許可証が交付されたら、そのまま営業を開始できる場合が多いですが、場合によっては追加の設備点検や衛生講習の受講が必要となることもあります。
許可取得後の注意点

許可を取得しても、安心してはいけません。継続的な衛生管理や更新手続きなど、営業許可の維持には注意が必要です。精肉販売では、業務規模や販売方法の変化に応じて、新たな設備の導入や届け出が要求されることがあります。
衛生管理の継続
営業開始後は、日々の衛生管理がとても重要です。とくに*HACCP(ハサップ)に沿った管理体制の導入は、小規模事業者にも努力義務化されています。
【管理する主な項目】
- 冷蔵・冷凍庫の温度チェック
- 調理器具・作業台の洗浄・消毒記録
- 従業員の健康管理
日常的な掃除・消毒によって常に食品を安全に保管できる環境を維持することが最重要です。冷蔵・冷凍設備の故障や包装機器のトラブルが発生した場合は、迅速に修理や代替設備を用意することが不可欠です。
*HACCP(ハサップ)
食品の安全を確保するための衛生管理手法で、製造工程の各段階において発生しうる危害要因(微生物汚染、異物混入、化学物質の影響など)を特定し、重点的に管理するシステムです。各工程で適切な予防措置を講じることで、食品の安全性を高めます。
参考:厚生労働省 HACCP入門のための手引書
定期的な営業許可更新
営業許可は有期限なので、期限切れにならないよう更新手続きを忘れずに行いましょう。
更新の際も施設検査が行われる場合があり、違反があると更新できない可能性もあります。許可証に書かれている有効期限をよく確認して、余裕をもって保健所に連絡することが重要です。
もし手続きを怠った場合、許可証失効の状態で営業を続けることになり、法的な問題に発展するリスクがあるため、更新時期の管理は非常に重要です。
販売方法の拡大時の手続き(オンライン販売など)
現代はネット通販で肉を販売する事業者も増えています。販売形態を変える際にも追加手続きが必要となる場合があります。
オンライン販売の場合
クール宅配便や冷凍便を使う際の衛生管理、発送前後の温度管理基準、送料設定・パッケージングなどの検討が必要です。
オンライン販売では食品表示の適切な記載も重要となります。
別の調理工程(加工食品製造)を追加する場合
食肉製品製造業など、新たな許可が必要になる可能性があります。
追加の申請や施設変更届が必要となるケースもあるため、事前に自治体の公式サイトや保健所に確認することが欠かせません。
飲食店との違い・兼業の場合
飲食店を営んでいて、一部をテイクアウト用の精肉販売にしたいケースもあります。その場合、飲食店営業許可と食肉販売業許可が両方必要になるケースが多いため、テイクアウト・デリバリーを始める際も保健所へ事前相談して確認しましょう。
精肉販売と飲食店を兼業するケースでは、それぞれ求められる設備基準や許可の取得方法が異なるため、二重管理となることも少なくありません。
両方を一度に始める場合は、店舗の構造をしっかり分けるか、共用スペースを明確にルール化するなど、保健所が示す基準に沿った設計を行うことが重要です。
店舗設計の段階から計画的に進めることで、後々の問題を防ぐことができます。
売上アップのための精肉販売戦略

許可を取得した後は、さらにビジネスを拡大していくための販売戦略を考えましょう。オンライン施策やブランディングが鍵となります。精肉の販売は、品質の高さや安全性を打ち出すことで差別化を図りやすいジャンルです。
オンライン販売と実店舗を組み合わせるメリット
相乗効果で集客アップとして、店舗に訪れたお客様に、ネット注文の方法を案内することでリピート獲得が期待でき、ネットで見つけたお客様に店舗体験を促すことで直接販売で客単価アップが狙えます。
広域からの注文を取り込める点も大きなメリットです。地方特産の肉やブランド牛を扱うなら、全国的な需要が期待されます。オンライン販売と実店舗を組み合わせることで、顧客接点を大きく広げることが可能となります。
店舗での試食やキャンペーン情報などをSNSで発信し、来店につなげる流れを作ることも効果的です。競合が多い中、「どんな強みを持った精肉店か」を明確に打ち出すことが重要です。
【差別化につながる商品開発とブランド戦略】
| 戦略 | 具体例 |
|---|---|
| 地域特産ブランド牛・豚・鶏を活用 | 〇〇牛の指定店として、付加価値の高い商品を提案 |
| オリジナル加工品の開発 | 精肉はもちろん、オリジナルの漬け込み肉・ローストビーフ・ハムなど |
| 健康志向・オーガニック路線 | 抗生物質を使わない飼料の肉、無添加調味料などをアピールする |
競合店との差別化を図るには、カット方法や部位の選び方に工夫を凝らすことも効果的です。ブランドイメージについても、SNSや店頭のデザイン、パッケージに統一感を持たせることで、一貫したメッセージを消費者に伝えることができます。
まとめ

精肉販売を始めるには、食品衛生法に基づく許可取得が最優先です。施設基準の整備や必要書類の準備は、保健所に事前相談しながら進めることでスムーズに手続きできます。
許可取得後も温度管理や衛生記録の維持、定期的な許可更新を忘れずに行いましょう。また消費者ニーズに合わせた販売戦略を展開することで、安定した事業成長が期待できます。
今後も法制度が変わる可能性があるため、常に最新情報を入手しながら柔軟に安全・安心を提供しつつ、魅力ある精肉販売を目指して取り組んでいきましょう。
参考サイト:東京都保健医療局 食品関係営業許可申請の手引き
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