【中食とは?】忙しい現代人の味方!外食・内食との違いから市場動向まで徹底解説

【中食とは?】忙しい現代人の味方!外食・内食との違いから市場動向まで徹底解説
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この記事の監修

監修者のアバター       葛川英雄      

水産市場の競り人、生鮮食品業界、人材業界で培った豊富な経験を持つ食のプロフェッショナル。現在は株式会社オイシルの代表取締役として、10年以上の業界経験を活かし、生鮮業界やスーパーマーケット業界の発展に貢献しています。

近年、私たちの食生活に大きな変化が起きています。コンビニやスーパーでお弁当や惣菜を買って家で食べる、デリバリーで専門店の味を自宅で楽しむ、冷凍食品をレンジで温めて食卓に並べる。こうした食事スタイルが、もはや特別なことではなく日常の一部として定着してきました。

この変化の背景にあるのが「中食(なかしょく)」という食事形態の普及です。共働き世帯の増加や単身世帯の拡大、そしてコロナ禍を経て、中食は現代人の食生活を支える重要な選択肢となっています。実際、中食市場は2023年に約10兆9,827億円まで成長し、11兆円という大台に迫る勢いを見せています。

本記事では、「そもそも中食って何?」「外食や内食とどう違うの?」「なぜこんなに注目されているの?」といった疑問にお答えしながら、中食の基本から市場動向、そして私たちの食卓に与える影響まで、わかりやすく解説していきます。

目次

中食の基礎知識|定義と内食・外食との違いを解説

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「中食(なかしょく)」とは?基本的な定義

「中食(なかしょく)」とは、調理済みの弁当や惣菜(おかず)などを購入し、自宅や職場などで食べる食事スタイルのことです。家庭で素材から調理する「内食(うちしょく)」、お店で提供された料理をその場で食べる「外食(がいしょく)」に対して、中食は外で作られた料理を持ち帰って好きな場所で食べる中間的な形態を指します。

この言葉が生まれたのは1980年代で、内食と外食の「中間の食事」という意味から名付けられました。当時から食生活の多様化が進んでいましたが、現在ではさらに一般的な食事スタイルとして浸透しています。

具体的には、スーパーの惣菜売場で唐揚げやサラダを買って家で食べたり、コンビニのお弁当や総菜、飲食店のテイクアウトや宅配(デリバリー)を利用して家で食べたりするのは、すべて中食にあたります。

内食・外食との明確な違い

中食を理解するには、内食・外食との違いを整理することが重要です。

内食は、家庭で素材から調理する食事のことです。野菜を切って、肉や魚を調理し、味付けから盛り付けまで自分で行う、いわゆる「手作り料理」がこれにあたります。

外食は、レストランやファストフード店などで提供された料理をその場で食べることです。店内で調理されたものを、同じ店内で食べるのが外食の特徴です。

中食は、外で作られた料理を持ち帰って好きな場所で食べる形態です。調理は外部に任せつつ、食事をする場所は自分で選べるという特徴があります。

この区別は日本の消費税制度にも取り入れられており、2019年の税率改定では店内飲食は10%、持ち帰り飲食は8%と課税が分かれました。例えばファストフード店でハンバーガーを「店内で食べる」のは外食ですが、「持ち帰って食べる」なら中食になります。このように外食に比べて中食は税率面でもお得なため、消費者にとって利用しやすい側面があります。

「惣菜」と「中食」の関係性

中食について語る上で、「惣菜(そうざい)」という言葉も重要です。惣菜とは一般的に調理済みのおかず全般を指す言葉で、家庭で手作りせず市販された料理を意味します。スーパーの惣菜コーナーやデパ地下のおかず専門店、コンビニのお惣菜などが典型例です。

つまり、惣菜は”料理の種類”を表し、中食は”その料理の食べ方・利用形態”を指すといえます。日常会話では「夕飯は惣菜を買って済ませた」のように、中食を利用したことを「惣菜で済ます」と表現することもあります。

中食の6つのメリット|なぜ選ばれる?利用者の本音

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近年、多くの人が中食を利用するようになった背景には、現代のライフスタイルに合った様々なメリットがあります。実際のアンケート調査や利用実態を踏まえながら、中食が選ばれる理由を詳しく見ていきましょう。

手軽さと時間短縮が最大の魅力

中食最大の利点は、なんといっても自炊(内食)に比べて調理や後片付けの手間が省けることです。実際、マクロミル社が2023年に実施した調査では、「料理を作るのが面倒だから」中食を利用するという人が最も多く挙げられています(出典:マクロミル「食卓の救世主!中食・外食はどのくらい利用されているか?」
調査レポート https://macromill.com)

忙しい平日の夜や疲れているときでも、買ってくればすぐ食べられるので家事の負担を大きく減らせます。「料理をする時間がない」ことや「手間のかかる料理も手軽に食べられる」ことも大きな動機になっており、仕事や勉強で忙しい平日には、中食が”食卓の救世主”になる場面が多いようです。

必要な分だけ購入でき食材ロスを削減

中食は一人前から少量ずつ購入できるので、食材から作ると余りがちな場合でもムダなく済みます。特に単身世帯では「食材を買っても使いきれない」ことが多く、出来合いの料理を買った方が経済的・合理的な面があります。

(出典:農畜産業振興機構「野菜情報」2022年9月号 https://vegetable.alic.go.jp)

全世帯の3分の1が一人暮らしという現代において、この「必要な分だけ」というメリットは非常に大きな価値を持っています。食材を余らせて捨ててしまうリスクを考えると、中食の方がむしろ環境にも家計にも優しい選択肢といえるでしょう。

豊富な種類とプロの味を手軽に楽しめる

スーパーやコンビニには和洋中様々なおかずやお弁当が並び、家庭では作れないような料理も手軽に楽しめます。実際に「普段作れないものが食べられる」ことを中食利用の理由に挙げる人も約3割います。

(出典:新潟大学地域連携フードサイエンスセンター「誰でもできる自炊のススメ」講演資料 https://agr.niigata-u.ac.jp)

近年は味や品質も向上しており、「冷凍食品の味が昔より格段に良くなった」という声も多く聞かれます。パナソニック社の2022年調査では、冷凍食品をメインのおかずに使う頻度が増えた人が4人に1人という結果も出ています。

家で手作りするより美味しいと感じる商品も増えており、消費者の満足感を高めています。

(出典:パナソニック株式会社プレスリリース https://prtimes.jp)

栄養バランスも工夫次第で改善可能

中食=不健康というイメージもありますが、実は選び方次第では栄養面のメリットもあります。例えば主菜(肉や魚のおかず)だけ中食を利用し、副菜の野菜料理は手作りする、といった組み合わせも可能です。いろいろな総菜を組み合わせれば品目数も増え、一汁三菜に近い献立も手軽に実現できます。

忙しい中でも栄養バランスを整えられるのは大きな利点です。もちろん塩分や油分が多めの商品もあるため、商品選びの際に栄養成分表示を確認する、汁物やサラダを足すといった工夫は必要でしょう。

外食より割安でコストパフォーマンス良好

中食は一般に外食より割安な傾向があります。外食だと店のサービス料や人件費が価格に上乗せされますが、中食ならその分を抑えられます。最近は物価高騰で外食価格が上昇し続けており、安価な中食でやりくりする人も増えています。

(出典:食品産業新聞社「成長する中食・惣菜~値上げ影響、ジャンルで差」https://shokuhin.net)

たとえばコンビニやスーパーで買えるおにぎりは手頃な”一食”として定着しており、値上げ局面でも買い控えが起きにくい代表的な中食商品です。このように「リーズナブルで便利」な中食の強みは、コストを重視する消費者から強い支持を得ています。

デメリットと上手な付き合い方

中食のデメリットとしては、味付けが濃かったり揚げ物が多かったりして塩分・脂質を摂りすぎる恐れがある点が指摘されています。また出来合いの物に頼ると「手料理が減って罪悪感がある…」と感じる人も昔はいました。

しかし現在では、そのようなネガティブな捉え方は薄れつつあります。パナソニック社の調査では、冷凍食品などを夕食に使うことに抵抗が「全くない」「あまりない」と答えた人が55.6%にのぼりました。「最近の冷凍食品は美味しいし家族にも好評」「時短になってストレスが減るので手抜きとは思わない」など肯定的な意見が多く寄せられています。

中食に含まれる商品カテゴリ7選|具体例で理解する

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中食と一口に言っても、その中には様々な商品カテゴリがあります。スーパーの総菜売場からコンビニ、専門店、宅配サービス、ネット通販に至るまで実に様々なチャネルで提供されており、消費者は自分の生活スタイルやニーズに合わせて、それらを自由に組み合わせて利用できる時代になっています。

惣菜(デリカ食品)

おかず全般を指す惣菜は、中食の中核といえる商品群です。唐揚げ、煮物、サラダ、焼き魚、コロッケなど、スーパーや惣菜専門店、コンビニの店頭で量り売りやパック売りされるおかず類が代表です。デパ地下では高級惣菜も人気があり、「今日はデパ地下グルメでちょっと贅沢に」といった楽しみ方も一般的になっています。

近年は各店舗が差別化を図るため、オリジナルレシピの開発や地域の名店とのコラボレーション商品なども登場しており、惣菜売場の充実ぶりは目を見張るものがあります。

弁当類

ご飯とおかずがセットになったお弁当も主要カテゴリです。コンビニ弁当、スーパーの店頭弁当、持ち帰り弁当チェーン(ほっともっと等)のお弁当、駅弁、仕出し弁当など様々な種類があります。

おにぎりやサンドイッチ、調理パンも広義の弁当に含まれます。近年はコンビニ各社がおにぎりやサンドイッチの品質向上に力を入れており、中食の花形商品となっています。特におにぎりは手頃な価格で満足感も高く、物価高騰の中でも堅調な売上を維持している代表的な中食商品です。

テイクアウト・デリバリー食品

レストランやファストフード店の料理を持ち帰りや宅配で利用する形態です。例えばピザの宅配、中華料理や寿司の出前、ファストフードの持ち帰りなどがあります。調理は外食産業が行いますが、食事場所は自宅なので中食に分類されます。

最近ではウーバーイーツ(Uber Eats)のようなデリバリーサービスの普及で、より手軽に専門店の味を中食として楽しめるようになりました。コロナ禍をきっかけに「中食=デリバリーで専門店の味を楽しむ」という新しい食習慣が広がったと言えます。

冷凍食品(調理冷凍食品)

電子レンジや湯せんで温めるだけで食べられる冷凍済みの調理食品です。冷凍餃子、冷凍パスタ、冷凍ピラフ、冷凍グラタン、冷凍うどん等、種類は豊富です。近年、冷凍技術の発達で味や食感が大きく向上し、中食の需要増を支えています。

実際、一般社団法人日本惣菜協会の統計によれば、2021年度の冷凍食品市場規模は2019年度比115%と伸び、1兆円を超えました(出典:パナソニック株式会社プレスリリース https://prtimes.jp)。冷凍食品は保存が利きストックしやすい点も評価されており、コロナ禍でのまとめ買い志向とも合致して大きく成長しています。

ここに冷凍食品市場規模の推移グラフを挿入

レトルト食品

常温保存できるレトルトパウチ入りの調理済み食品です。カレー、シチュー、パスタソース、丼の具などが代表例で、湯煎や電子レンジで温めるだけで本格的な味を楽しめます。レトルト食品は1960~70年代に普及しましたが、現在も進化を続けており、中食の一翼を担っています。

最近ではご飯とセットになったレトルトカレーのルウとご飯パックの組み合わせなど、まさに”Ready to Eat”の手軽さが売りです。災害時の備蓄食品としても注目されており、日常使いと非常時の両方に対応できる商品として価値が見直されています。

ミールキット

必要な食材と調味料、レシピがセットになった料理キットです。調理の手間を大幅に省きつつ、出来立ての料理を作れることで人気が高まっています。例えばカット野菜や下味済みの肉・魚とタレが入っており、フライパンで炒めるだけで一品完成するような商品です。

「ヨシケイ」「Oisix」などの宅配サービスやスーパーで販売されるキットがあり、忙しい共働き世帯を中心に利用者が増えています。ミールキットは「ほぼ調理済みの中食」と「自炊(内食)」の中間とも言える存在で、中食市場の新たなカテゴリーとして注目されています。

缶詰・瓶詰など

開封するだけで食べられる調理済みの缶詰・瓶詰食品も中食に含められることがあります。例えば魚の煮付けの缶詰やレトルトご飯と組み合わせれば立派なおかずになります。非常食やおつまみとしてだけでなく、普段の食卓のおかずの一品として活用する人も増えています。

最近は高級志向の「缶つま」(缶詰のおつまみ)なども登場し、中食の選択肢を広げています。保存期間が長く常温保存できるため、忙しい時のストック食品として重宝されている商品群でもあります。

中食市場の規模と成長トレンド|11兆円市場の実態

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日本の中食市場(惣菜産業)はこのところ堅調に拡大を続けています。その規模は既に外食市場の約半分に達するほど成長しており、現代の食生活において欠かせない存在となっています。

市場規模の推移(2020年~2023年)

一般社団法人日本惣菜協会の統計によれば、中食市場規模は2019年に約10兆3,200億円と過去最高を記録しました。しかし翌2020年は新型コロナウイルス感染症の影響で9兆8,195億円(前年比▲4.8%)と11年ぶりに縮小しました。

(出典:農畜産業振興機構「野菜情報」2022年9月号 https://vegetable.alic.go.jp)

これは外出自粛などで一時的に需要が落ち込んだためですが、その後は早くも回復に転じ、2021年は10兆1,149億円(前年比+3.0%)と再び10兆円台に戻りました。2021年時点ではコロナ前の2019年比で98%程度と、まだ完全には追いついていませんでしたが、2022年には10兆4,652億円(前年比+3.5%)となりついに2019年実績を上回りました。

さらに2023年は10兆9,827億円(前年比+4.9%)と大きく伸び、市場規模は「11兆円」に迫る規模となっています。この10年間で中食市場は約1.2倍に成長しており(2013年比117.6%)、今後も拡大が見込まれています。

ここに日本の惣菜(中食)市場規模の推移グラフを挿入

(出典:一般社団法人日本惣菜協会「惣菜白書2024」ダイジェスト版 https://nsouzai-kyoukai.or.jp)

販路別の内訳と成長率

中食市場の内訳を販路別に見ると、スーパーマーケットやコンビニエンスストアの惣菜・弁当売上が大きな割合を占めます。2021年時点で見ると、中食市場全体のうち食品スーパーが約29%、コンビニが約31%を占めており、この2業態で6割強を担います。次いで惣菜専門店(デパ地下含む)が約27%、百貨店が3%程度という構成です。

(出典:一般社団法人日本惣菜協会「惣菜白書2024」ダイジェスト版 https://nsouzai-kyoukai.or.jp)

この10年で特に成長が目覚ましいのが食品スーパーとコンビニで、2014年比で食品スーパーは+41.8%、コンビニは+24.0%と大幅に売上を伸ばしています。コンビニ各社が中食商品の開発に注力してきた成果と言えるでしょう。

カテゴリ別の市場動向

カテゴリ別では、米飯類(お弁当・おにぎりなど)と調理総菜(おかず類)がそれぞれ市場の4割前後を占め、次いで調理パン、調理麺類が続きます。近年はどのカテゴリも伸びていますが、中でも米飯類(おにぎり・弁当)市場の伸びが著しく、2020年以降の物価高の中でもおにぎりの売上は堅調に推移しています。

一方で調理麺(レンジ麺)は値上げによって外食との価格差が縮まり、一部で売上が苦戦する動きも見られました。このように、消費者の購入動向は品目や価格帯によって変化していますが、総じて中食市場全体は堅調な成長を続けています。

(出典:食品産業新聞社「成長する中食・惣菜~値上げ影響、ジャンルで差」https://shokuhin.net)

外食市場との比較

中食市場がここまで拡大したことで、外食産業に匹敵する規模になっています。参考までに、野村総合研究所のレポートによれば外食市場規模は2019年に約26.3兆円でしたが、コロナ禍で一時縮小し2023年には24兆円台にとどまっています。一方、中食市場は2023年時点で約11兆円と、外食の約半分程度の規模まで成長してきました。

富士経済の予測では2023年の中食市場規模を約12.8兆円と推計しており(※定義範囲の違いあり)、コロナ前の2019年比で117.7%にも達したとされています。このようにデータに若干の差はありますが、いずれの統計でも2020年以降の中食市場が拡大基調にある点は一致しています。

中食需要拡大の社会的背景|なぜ今必要とされる?

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中食市場をここまで押し上げた背景には、日本の社会構造や生活様式の変化があります。これらの変化は一時的なトレンドではなく、構造的な要因として今後も中食需要を支え続けると考えられています。

共働き世帯の増加

かつて主流だった「専業主婦」の家庭は減少し、90年代後半には共働き世帯数が専業主婦世帯数を逆転しました。現在では共働き世帯が当たり前となり、家事に割ける時間が限られる家庭が増えています。

その結果、「料理は外部の力を借りて済ませたい」というニーズが高まり、中食利用が広がりました。仕事で帰宅が遅くなっても、総菜やお弁当を買えばすぐ食卓を整えられるため、共働き世帯にとって中食は強い味方です。女性の社会進出が進む中で、家事の効率化は避けて通れない課題となっており、中食はその解決策の一つとして重要な役割を果たしています。

(出典:農畜産業振興機構「野菜情報」2022年9月号 https://vegetable.alic.go.jp)

単身世帯の増加

核家族化が進み、今や全世帯の3分の1が一人暮らしという時代です。2030年頃には単身世帯が全体の4割に達するとの予測もあります。一人分の食事を毎回自炊するのは手間がかかるうえ、食材を買っても消費しきれず無駄になりがちです。

そこで「必要な分だけ買える中食」の方が合理的と考える単身者が増えています。特に高齢の一人暮らしでは、調理の負担や食材ロスを減らすために総菜やミール宅配を利用するケースが多く見られます。この傾向は今後の高齢化進展に伴ってさらに強まると予想されています。

高齢化と生活スタイルの変化

日本は超高齢社会を迎え、総人口は減少に転じています。高齢になると食事量が減り、大量に作り置きするよりも少量多品種の中食を買い足す方が無駄がないという考え方が広まっています。

また高齢者だけでなく若年層でも、「料理は趣味ではなく生活インフラ」という意識が強まり、手軽さや効率を求める傾向が強くなりました。忙しい現代人にとって、中食は時間をお金で買う選択肢として定着してきたのです。

物価高・節約志向

近年、食品やエネルギーの価格上昇が家計を直撃し、食費の節約志向が高まっています。外食は値上げが相次ぎランチ一食の負担も増えていますが、その点中食なら比較的安価にボリュームを確保できます。

例えば500円前後のお弁当や100~200円台のおにぎりはコストパフォーマンスに優れ、物価高の中でも支持されています。「毎日外食は厳しいけど、中食を取り入れれば出費を抑えられる」という理由で中食利用を増やす人も多く、昨今の物価高は逆に中食需要を押し上げる要因にもなっています。

ライフスタイルの多様化

単身赴任や在宅勤務、副業など、人々の働き方・暮らし方は多様になりました。不規則な生活でも柔軟に食事をとれるよう、中食サービスも進化しています。24時間営業のコンビニや夜遅くまで開いているスーパーが身近にある都市部では、深夜でも総菜やお弁当を買える環境が整っています。

ネット通販で冷凍惣菜をまとめ買いしたり、スマホアプリで宅配弁当を注文したりといったことも可能です。こうした利便性の向上も、中食利用のハードルを下げた大きな要因でしょう。

コロナ禍で加速した中食トレンド|新しい食習慣の定着

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2020年からの新型コロナウイルス禍は、人々の食生活にも大きな変化をもたらしました。中食はその変化の中でさらに需要が高まり、新たなトレンドが生まれています。

内食・外食費の逆転現象

コロナ禍で外出自粛が続いた2020年、家庭の食費の内訳に変化が起きました。総務省「家計調査」によると、2020年は家庭内での調理済み食品(中食)の支出額が、初めて外食費を上回ったのです。

外食に行けない代わりにスーパーやコンビニで惣菜や弁当を買うケースが急増し、中食が家での食事の主役になったことを示しています。実際、中食市場規模も2020年は一時減少しましたが2021年以降すぐに持ち直しており、コロナ禍で生活者に欠かせない存在として定着したことが窺えます。

(出典:総務省統計局「家計調査年報」2020年 https://vegetable.alic.go.jp)

量販店の「総惣菜化」

スーパーなど小売店ではコロナ禍以前から惣菜売場の強化が進んでいましたが、最近では鮮魚・精肉・青果コーナーにも惣菜が並ぶようになってきました。例えば鮮魚売場でお寿司や焼き魚が買えたり、精肉売場でローストビーフやコロッケが販売されたりと、各売場ごとに出来合い商品の品揃えを拡充する動きがあります。

コロナ禍で巣ごもり需要が高まる中、「お店で何でもそろえて買える」総惣菜化は消費者の支持を集めました。一箇所で必要なものを全て調達できる利便性が、感染リスクを抑えたい消費者のニーズと合致したのです。

冷凍食品ブーム

コロナ禍は冷凍食品の需要を一気に押し上げました。外出を控えてまとめ買い志向が強まった結果、保存の利く冷凍食品の売上が大幅に伸びたのです。特にレンジで温めるだけの調理済み冷凍惣菜が人気を博し、在宅勤務中の昼食に冷凍パスタや冷凍どんぶりを利用する人も増えました。

実際、2020年の冷凍食品市場は前年から大きく拡大し、2021年度には前述の通り1兆円超まで成長しています。この「冷食ブーム」はコロナ後も続いており、家庭の食卓に冷凍食品が並ぶ頻度は高まりました。「冷凍食品=手抜き」という古いイメージは薄れ、便利で頼れる主役の一品として定着しています。

デリバリーサービスの急成長

コロナ禍で飲食店の宅配・持ち帰りサービスが一気に普及しました。Uber Eatsや出前館などのネット宅配サービスが都市部を中心に浸透し、ゴーストレストラン(デリバリー専門店)も数多く登場しました。街中では自転車やバイクで料理を届ける配達員の姿が日常的に見られるようになりました。

統計によれば、2020年のフードデリバリー市場規模は約6,264億円と前年比150%もの急成長を遂げました。その後も2021年にかけて拡大が続いたとみられ、コロナ禍をきっかけに「中食=デリバリーで専門店の味を楽しむ」という新しい食習慣が広がったと言えます。

(出典:農畜産業振興機構「野菜情報」2022年9月号 https://vegetable.alic.go.jp)

Eコマース・ミールキットの普及

巣ごもり生活の中で、食材や総菜の宅配サービスを利用する人も増えました。ネット通販各社が惣菜セットの販売を強化し、冷凍弁当の定期宅配やミールキット宅配が人気となっています。特にミールキットは調理の時短と出来立ての美味しさを両立できることで注目され、大手のミールキットが好調に推移するなど市場が拡大しました。

中食の一形態として、「ほぼ完成品」を届けて自宅ですぐ仕上げるミールキットは、忙しい家庭や料理初心者にとってありがたい存在です。今後も即食志向の高まりに伴い成長が期待されています。

キッチンカーの台頭

飲食店が店内営業を縮小する中で、新たな販売形態としてキッチンカー(移動販売車)が注目されました。公園やオフィス街に出向いてお弁当やスイーツを販売するキッチンカーが増え、都内では約5000台に達したとも言われます。

店を構えず初期投資が少ないことから参入が相次ぎ、ランチ難民対策やテイクアウト需要に応える形で定着してきました。キッチンカーで買ったお弁当をオフィスや自宅で食べるのも一種の中食と言えます。コロナ禍で高まった職場や自宅周辺で手軽に食事を調達したいニーズに応える存在として、キッチンカーは今後も活躍が期待されています。

以上のように、コロナ禍は中食の利用を一時的な非常手段から日常的な習慣へと押し上げた面があります。外食産業が苦境に立たされる一方で、中食産業は柔軟に環境変化に対応し、市場規模を維持・拡大してきました。例えば総菜メーカー各社は宅配向け冷凍惣菜や、おつまみ需要に応える新商品などを次々投入し、消費者のニーズに応えています。

(出典:食品産業新聞社「成長する中食・惣菜~値上げ影響、ジャンルで差」https://shokuhin.net)

中食が変えた食卓の姿|効率化と満足度の両立

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中食の普及によって、日本の家庭の食卓風景も少しずつ変わってきました。「夕飯=手作りが当たり前」という固定観念は薄れ、手作りと市販品を上手に組み合わせた食事が増えています。

手作りと市販品の組み合わせスタイル

忙しい日はメインのおかずを総菜に頼り、副菜だけ簡単に自分で用意する、といった具合に無理をしない食卓運営が市民権を得ました。「家族にきちんと手料理を出さなきゃ…」といったプレッシャーから解放され、ストレスなく食事を用意できるのも中食利用の恩恵です。

実際、前述の調査でも「冷凍食品の活用で家事の効率が上がり、かえって家族も喜んでいる」という声や、「時短でストレスが減るので手抜きとは思わない」といった声が多数報告されています。中食は決して「手抜き」ではなく、限られた時間や体力を賢く配分するための工夫と捉えられるようになりました。

時間のゆとりがもたらす効果

また、中食を取り入れることで生まれた心のゆとりも見逃せません。調理にかけていた時間を家族団らんや趣味、自分の休息に充てられるようになり、「ちゃんと休めるからこそ明日も頑張れる」と感じる人もいます。

特に子育て世代では、中食を活用することで子どもとの時間を確保できるようになったという声も多く聞かれます。料理に追われて疲れ切ってしまうより、中食を上手に使って余裕を持って家族と過ごす方が、結果的に家庭全体の満足度が高まるケースも少なくありません。

食卓満足度の向上

さらに、中食の充実は食卓の満足度向上にも寄与しています。プロが作ったおかずや話題のお店のテイクアウトなど、家庭にいながら外食並みのクオリティを味わえる機会が増えました。「今日はデパ地下グルメでちょっと贅沢に」「人気店のテイクアウトでお店気分」といった楽しみ方も一般的です。

おうち時間が増えたことで、自宅でおいしいものをゆっくり味わうスタイルが定着しつつあります。外食では味わえない、自分のペースでリラックスして食事を楽しむという新しい価値観も生まれています。

健康面での配慮とバランス

もちろん健康のために手料理ならではの良さも見直されています。中食と内食をバランス良く組み合わせるのが理想的でしょう。栄養士は「中食を上手に使いながら、1品でも手作り料理を加えてみましょう」とアドバイスしています。

例えば市販の総菜に季節の野菜炒めや味噌汁など手作りの一品を添えれば、栄養面も補え満足感もアップします。中食は私たちの食卓を無理なく豊かにする強い味方なのです。

(出典:新潟大学地域連携フードサイエンスセンター「誰でもできる自炊のススメ」講演資料 https://agr.niigata-u.ac.jp)

まとめ

中食とは、調理済みの食品を購入して自宅や職場などで食べる食事スタイルのことで、現代の忙しいライフスタイルに合った食事形態として急速に普及してきました。内食(手作り料理)と外食の中間に位置し、手軽さと経済性を兼ね備えた選択肢として、多くの人に支持されています。

2023年には約10兆9,827億円と11兆円に迫る市場規模まで成長した中食産業は、共働き世帯の増加、単身世帯の拡大、高齢化といった社会構造の変化を背景に、今後もさらなる発展が期待されています。特にコロナ禍を経て、中食は一時的な代替手段から日常的な食事選択肢として完全に定着しました。

中食の最大の魅力は、時間短縮と手軽さにあります。調理や後片付けの手間を省けるだけでなく、必要な分だけ購入できることで食材ロスも防げます。また、プロが作った様々な料理を手頃な価格で楽しめるという点も大きな価値と言えるでしょう。

重要なのは、中食を「手抜き」と捉えるのではなく、限られた時間と体力を効率的に使うための賢い選択として活用することです。手作り料理と市販品を上手に組み合わせることで、無理なく栄養バランスの取れた食事を実現できます。

現代社会において、中食は私たちの食生活を支える重要なインフラとなっています。内食・外食・中食の特徴を理解し、それぞれをバランス良く取り入れることで、より豊かで満足度の高い食生活を送ることができるのです。

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