色とりどりの野菜や果物が並ぶ青果市場は、私たちの食卓に豊かな恵みを届けるための重要な拠点。全国各地から集められたこれらの青果は、生産者から卸売業者(大卸)へと渡り、さらに仲卸(なかおろし)へと引き継がれます。
普段あまり目にすることのない場所ですが、ここで働く人々のおかげで、私たちの食卓に旬の野菜や果物が並ぶのです。
今回は、青果市場のなかでも「仲卸(なかおろし)」に注目! 仲卸の具体的な仕事内容とは? 求められるスキルとは? 仲卸の基本を詳しくみていきましょう。

なお本記事では、かつて仲卸として現場を経験し、現在は株式会社オイシルの代表取締役として生鮮業界に関わり続けている葛川がポイントを解説していきます! 現場目線のリアルなコメントにもご注目ください。
青果のプロ「仲卸(なかおろし)」とは?


「仲卸(なかおろし)」とは、青果の仕入れと販売を一手に引き受ける仲介人。
青果市場で「卸売業者(大卸)」から買い付けた野菜や果物を仕分け、スーパーマーケットや八百屋などの小売店、加工業者、飲食店といった買出人に販売する仲介業者のことです。
青果市場での取引には、主に次の3つの業者が関わっています。
- 卸売業者(大卸)
全国から市場に集荷された農産物を引き取り、市場内で販売。「荷受(にうけ)」とも呼ばれることも。 - 仲卸(仲買人)
卸売業者(大卸)から青果を買い付け、小売店や飲食店のニーズに応じて販売、配送する仲介業者。 - 買出人
仲卸から青果を購入し、消費者に提供する小売店や飲食店。大卸から直接購入する場合もある。
青果市場では、これらの人々がスムーズにやり取りすることで、農産物の効率的な流通が実現しています。なかでも生産者と消費者のちょうど中間に位置している仲卸は、まさに市場の要といえるでしょう。
仕入れ・価格調整・納品… 業務内容仲卸が担う4つの役割とは


具体的に、仲卸にはどのような役割があるのでしょうか? 4つに分けてご紹介します。
【価格を安定させる】相場を見ながら適正価格を設定
仲卸は、市場で仕入れた青果を、相場や需要の状況に応じて適正な価格で販売しています。価格の変動が激しくなりがちな青果の取引において、仲卸が間に入ることで調整が効きやすくなり、市場全体の価格の安定につながります。
- 市場の価格変動を把握し、相場に応じた価格を柔軟に設定。
- 買い手にとって無理のない価格で、売り手にも利益が出るよう調整。
- 異常な高騰や暴落を防ぎ、継続的な取引がしやすい環境を維持。
【青果を細分化して届ける】小売・飲食店向けに数量調整
仲卸は、生産者から届いた大量の青果を小売店や飲食店のニーズに応じて細かく仕分けし、必要な数量で供給します。業態によって求められる量や品目が異なるため、それぞれに合わせた対応が求められます。
- 飲食店には少量多品種、小売店には売れ筋をまとまった数量で提供することで、各業態の仕入れ負担を軽減。
- 卸売業者は大口取引に集中でき、市場全体の業務効率が向上。
- 青果の過不足を防ぎ、安定した供給体制を実現。
【需給バランスを調整する】天候や需要に応じた仕入れ・供給の判断
仲卸は、市場で仕入れた青果を、相場や需要の状況を踏まえて適正な価格で販売しています。青果は天候や生産量によって価格が変動しやすいため、仲卸が間に入って価格を調整することで、過度な高騰や急落を防ぎ、市場全体の安定を支えています。
- 市場の価格変動を把握し、相場に応じた価格を柔軟に設定。
- 買い手にとって無理のない価格で、売り手にも利益が出るよう調整。
- 異常な高騰や暴落を防ぎ、継続的な取引がしやすい環境を維持。
【品ぞろえを広げる】新しい商品や季節品の導入で市場を活性化
仲卸は、卸売業者が取り扱う定番商品に加えて、新しい品種や珍しい野菜・果物を積極的に仕入れることで、市場の品ぞろえを豊かにしています。これは買出人にとって選択肢が増えるだけでなく、市場全体の活気づけにもつながります。
- 新しい品種や珍しい野菜・果物を積極的に仕入れ、市場に変化を生む。
- 季節限定の商品や地元の特産品を紹介し、来場者の注目を集める。
- 仲卸の工夫によって市場の品ぞろえが充実し、消費者の関心も高まる。
農家からあなたの食卓へ! 青果が届くまでの5つのステップ


ここからは、青果が消費者の手元に届くまでの流通のしくみを詳しく見てみましょう。
生産者が丹精こめて育てた野菜や果物は、JA(農業協同組合)などの出荷業者により集荷され、品種や等級ごとに選別・箱詰めされたうえで、全国の青果市場へと送られます。
出荷業者の多くは農協系の団体ですが、他にも商社や産地の出荷団体、任意組合なども関わっています。農家が個人で出荷するケースもあり、流通ルートは多様化しています。
市場に到着した大量の青果は、まず大卸(おおおろし)が受け取り、市場内に並べられます。
販売方法には、生産者(農家やJA)が卸売業者に販売を委託し、取引額に応じた手数料を支払う「委託販売」と、大卸が生産者から直接買い取って販売する「買付販売」の2種類があります。
- 委託販売は、天候や生産状況によって品質や数量が変動しやすい青果に多く用いられます。
例:トマト、ナス、葉物野菜など
出荷者は販売価格に対して手数料を支払うため、市場価格に応じて収入が変動します。 - 買付販売は、年間を通して供給と需要が安定しており、価格の予測が立てやすい品目に適しています。
例:キャベツ、玉ねぎ、バナナ、りんごなどの定番商品
大卸が事前に価格と数量を決めて買い取るため、出荷者にとっては収入が安定しやすいものの、卸売側は販売リスクを負いやすい側面もあります。
こうした仕組みにより、品目の特性に合わせた柔軟な取引が可能となり、市場全体の流通がスムーズに行われています。
青果市場では、大卸から仲卸へ商品の販売が行われます。この取引には、大きく分けて次の2つの方法があります。
- 相対(あいたい)取引:売手と買手が直接交渉し、価格や仕入れ数量を決定する方法。現在、多くの市場で主流となっている。
- せり(競り)取引:複数の買手が価格を提示し、最も高い価格を出した人が購入できる方法。かつては主流でしたが、現在では一部の市場を除き減少傾向。
せりの方法は市場によってさまざまで、手の指で価格を示す「手競り」や、ホワイトボードを使って提示するスタイルもあります。こうして大卸と仲卸の間で取引が成立し、商品は次のステップへと進んでいきます。



これまで青果市場での取引といえばせりが一般的でしたが、近年は一部の卸売市場をのぞき、ほとんどが相対になりました。
せりの方法も、手の指を使って価格を提示するほか、それぞれがホワイドボードを持ち提示する方法など、市場によってさまざまです。
仲卸は、仕入れた青果を小売店や飲食店のニーズに合わせて販売します。それぞれの業態や規模に応じて、必要な品目・数量・等級を選び、最適な形で提供するのが役割です。
場合によっては、仕入れた青果をそのままではなく、小分けやパッケージングを行い、使いやすい状態に整えてから納品することもあります。
とくに飲食店や小規模店舗では、少量多品種の要望が多いため、柔軟な対応が必要不可欠。こうした細かな調整により、販売先ごとのニーズにきめ細かく応えることができるのが、仲卸の強みです。
仲卸から仕入れた青果は、小売店や飲食店を通じて、最終的に消費者のもとへ届けられます。
小売店では、仕入れた青果を店頭に並べ、家庭の食卓へと販売。一方、飲食店では、新鮮な野菜や果物が料理の素材として使われ、お客さまに提供されます。
こうして、生産者が育てた青果は、市場での取引と分配を経て、私たちの生活に欠かせない食材として日々の食卓に並ぶのです。
市場の朝を動かす! 仲卸の仕事内容とは?


仲卸の一日は、まだ夜が明けきらない早朝から始まります。受注確認に始まり、商品の目利き、仕入れ、仕分け、そして納品まで──。市場のスムーズな流通を支える重要な役割を担い、まさに「市場の朝を動かす存在」と言えるでしょう。
ここからは、仲卸がどのようなスケジュールで動いているのか、仕事内容をステップごとに詳しくご紹介します。
お客さまからの受注集計
仲卸の仕事がはじまるのは、夜明け前。午前4時頃までに出勤し、あらかじめお客さま(小売店や飲食店)から届いている注文を集計します。受注方法は、FAXや電話、最近ではオンラインシステムを活用するケースも増えています。
小売店や飲食店のニーズは多様で、単に品目や数量だけでなく、サイズ、等級、産地、鮮度などの指定があることも少なくありません。ここでミスがあると仕入れがうまくいかず、お客さまに迷惑をかけてしまうため、慎重な確認が欠かせません。
商品の下見
取引がはじまる前の朝5時。仲卸は、商品を仕入れる前に市場内で出品される青果の下見を行います。
商品が入っている段ボール箱には産地や等級が記載されているため、丁寧に下見して、仕入れる品物を選定。おおよその仕入れ価格をイメージしながら、取引に備えます。
同じ品目でも、産地や等級、さらには天候や生産状況によって味や価格が異なるため、経験を活かして最適な商品を見極めることが重要です。熟練の仲卸が最も腕を試されるのが、この下見の時間です。
商品の仕入れ
朝6時すぎ。いよいよ市場の取引が開始します。仲卸は、せりと相対、どちらかの方法で大卸から青果を買い付けます。
お客さまのニーズを考えながら、鮮度・品質・価格のバランスを見極め、最適な商品を仕入れるのが仲卸の腕の見せどころ。ここでの判断が、その日の商売のカギを握ります。



仕入れでは、注文のあった分に加えて、大卸が売りきれなかった分の商品を安く購入して、売上利益を取りながら、お客さまに喜んでもらうテクニックも重要です。
小分けやパッケージ作業
市場での取引は朝8時頃までに終わることが多く、そこからは納品準備に入ります。
市場で仕入れた青果は、大きな単位で取引されることが多いため、そのままでは小売店や飲食店のニーズに合わないこともしばしば。仕入れた青果の状態にあわせて小分け作業やパッケージング作業をおこない、お客さまが使いやすい状態に整えるのも仲卸の重要な仕事です。
仲卸は単なる仕入れ・販売だけでなく、”お客さまが求める形で青果を届ける役割” を担っているのです。
お客さまへの販売と配達
仕分けが完了した青果は、小売店や飲食店へと届けられます。
鮮度が重要な青果は、スピーディーな対応が必要不可欠。市場に直接来て仕入れるお客さまもいれば、配達を希望するお客さまもいるため、仲卸は効率的に対応しなければなりません。
また、納品時は貴重なフィードバックを得るチャンスでもあります。お客さまから商品の評価や要望を聞き、次回の仕入れに活かす努力が欠かせません。



納品のときは、お客さまとの会話を大切にします。「この間のリンゴは物が良かったよ!」や「この間のリンゴは全然ダメだったね」といったように、会話をとおして品質の答え合わせをします。
仲卸の仕事は、顧客との信頼関係の上に成り立っています。日々お客さまのために最善を尽くすことで、たとえ品質の悪い商品を仕入れてしまった時でも「次回は頼むよ!」と、中長期的な取引につながるのです。
目利き・分析・体力も! 仲卸に求められる5つのスキルとは?


青果市場で仕入れから販売、配達まで一手に引き受ける仲卸。仲卸の仕事は、単なる仕入れ屋ではありません。一瞬で品質を見抜く目利き力、ニーズを先読みする分析力、そして早朝から動くための体力まで──。青果流通の現場で信頼されるには、実に多様なスキルが求められます。
① 商品を見極める力
仲卸にとって最も重要なスキルのひとつは、商品を見極める力、いわゆる「目利き」のスキルです。
市場にはさまざまな品質や産地の青果が並んでいます。しかし、同じ品種であっても、鮮度や大きさ、色合いによって価格や評価が異なるため、どれが最適かを瞬時に判断する力が必要です。
長年にわたって経験を積むことで自然と商品を見極める力が養われ、仕入れ時により良い選択ができるようになると言われています。
② お客さまのニーズを把握する分析力
仲卸は、常に変化する市場のトレンドを把握し、お客さまのニーズを的確に把握する分析力が求められます。
小売店や飲食店には、それぞれ異なる要望があります。仲卸は、お客さまの過去の注文履歴や季節ごとの動向を分析し、必要な商品を予測して仕入れをおこないます。
また、お客さまからの要望をそのまま受け取るだけでなく、その裏に隠された本当のニーズに目を向けることも重要です。こうした分析力は、ときに潜在的なニーズを汲み取り、より的確な提案につながることも。



たとえば、お客さまから「リンゴが 50kg 欲しい」と言われたら、「なぜリンゴが 50kg 欲しいのか?」を考えましょう。実は「売り場に赤い果物が必要」というニーズがあるかもしれません。
この場合、リンゴが欠品していても、代わりにサクランボを提案することで、ワンランク上の取引ができます。これは仲卸としての上級テクニック。こういったやり取りの積み重ねが、お客さまとの信頼関係につながっていくのです。
③ 素早い計算力
仲卸は、基礎的な計算、つまり足し算引き算、掛け算割り算をいかに素早くできるかが、仕事の質を左右します。
業務のなかには、歩留まり(仕入れた商品の実際に販売可能な部分)や原価計算、値入れ(販売価格を決定すること)、利益率、廃棄率などを踏まえてお客さまに提案する場面が少なくありません。
経営的な視点で利益を見積もるためにも、基礎的な計算力、そして基本的な簿記の知識は仲卸の必須スキルといえるでしょう。



もちろん数字が苦手でも活躍してる人はいますが、やはり中長期的には苦しむ傾向です。「営業」から「商売人」になるには、数字への強さは必須といえるでしょう。
④ コミュニケーション能力
仲卸にとって、重要なコミュニケーション能力。これは、単なるやりとりのスキルではありません。大切なのは、お客さまとの信頼関係を築き、目をかけてもらえる存在になることです。
たとえば、仕入れた青果が予想以上に余ってしまった場合、全てを売り切るのは非常に難しいのが現実です。
「腐ってしまうぐらいなら、半値でもいいから売りたい」。このようなときに、お客さまがどれだけ理解し、柔軟に対応してくれるか、「この人が困っているなら、力になろう!」と思ってくれるかがカギになります。
円滑なやり取りが基本であることは言うまでもありませんが、こうした微妙なお願いに対しても理解を示し、時には助けてもらえる信頼を築けるかが、仲卸としての能力のひとつと言えるでしょう。
⑤ 体力と持久力
仲卸の仕事は、早朝からの作業や重い荷物の運搬も多いため、体力と持久力は必須です。とくに、朝に強いことはマスト。早い人では深夜1時〜2時には出勤、なんてこともあります。
日々の健康管理や体力づくりが仕事のパフォーマンスに直結するので、「体のメンテナンスも仕事のうち」と捉えられる人がこの仕事に向いているでしょう。
業界内からの転職も多数! 仲卸として働くためには?


仲卸の仕事は、青果市場の流通を支える重要なポジション。実際に働く人の多くは、新卒で仲卸企業に就職するか、青果店・飲食店・農協・物流業など、関連業界から転職してくるといったケースが目立ちます。最後は、仲卸として働くための一般的なキャリアルートや、現場で役立つ資格・スキルについて見てみましょう。
青果市場にある仲卸企業の従業員になる
仲卸として働くために、特別な資格は必須ではありません。多くの場合は、高校・専門学校・短大・大学を卒業後、市場内で営業活動を行っている仲卸企業に就職する形が一般的です。
現場での経験を重ねながら成長していくスタイルが主流のため、未経験からでもスタートしやすい環境といえるでしょう。なお、あると役立つ資格やスキルには以下のようなものがあります:
- 食品衛生責任者
青果は食品なので、安全管理の基礎知識があると安心。資格取得で信頼感もアップします。とくに市場内での作業や配送先での取り扱い時に、衛生面への意識があることは大きな信頼材料になります。 - 普通自動車運転免許
商品の仕入れや納品で車両を使う場面が多いため、運転免許は実務上の重要度は高め。求人によっても変わるので、よくチェックしておきましょう。 - 日商簿記検定(3級〜)
仕入れ価格や利益計算など、数字の基礎感覚があると仕事に直結。経営的な視点にも役立ちます。とくに、日々の粗利を計算して提案につなげる仲卸の仕事では、数字の理解が強い武器になるでしょう。
とはいえ、仲卸は資格よりも実際の経験やスキルが重視されることが多い傾向にあります。現場での業務をとおして学ぶことが多いため、資格取得はあくまでサポート的な役割と捉えましょう。
仲卸の会社に転職する
仲卸には、他業種からの転職者も多く見られます。とくに、次のような業種で働いていた方にとっては、仲卸は身近な存在であり、転職先として選ばれやすい傾向があります。
- 大卸(卸売業者)や農家、農協
- スーパーマーケットや青果専門店
- 飲食店や給食業者など、青果を日常的に扱う業種
- 運送・物流関連の企業
これらの業界で働いた経験がある方は、商品の知識や流通のしくみに明るく、仲卸でも即戦力として活躍できるでしょう。
一方で、業界未経験でも「野菜や果物が好き」「人と接するのが好き」といった想いがあれば、仲卸の仕事に挑戦することは十分可能です。最近では生鮮業界に特化した求人サイトなども増えているので、転職を検討中の方は活用してみるとよいでしょう。
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まとめ
新鮮な野菜や果物が並ぶ青果市場。全国各地から集められたこれらの青果は、生産者から卸売業者(大卸)、そして仲卸へと受け渡され、私たちの食卓へと届けられます。
なかでも、目利きのスキルと仕入れのセンスで市場のニーズに応える仲卸は、まさに青果流通のプロフェッショナルです。
朝が早い分、終業時間も早く、午後の自由な時間を活用しやすいのも魅力のひとつ。景気に左右されにくい安定した職業でもあるため、「今の仕事に満足していない」「新たな挑戦をしたい」と考えている方にもおすすめです。
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