2026年5月、スーパーマーケット「ベイシア」の商品部長・須永氏が食品産業新聞社のインタビューで語った内容が、業界関係者の間で注目を集めています。食品PBの売上構成比を現状の15%超から2年以内に20%へ、将来的には30%まで引き上げるという目標です。
しかしこれは一社の話ではありません。PB食品市場は2019年から2023年の4年間で約27%拡大し、2025年には約12兆円・2030年には約15兆円に達するという予測があります。物価高が続く中でNB(ナショナルブランド)商品の販売が伸び悩む一方、PBの売上が伸長するという傾向は業界全体で鮮明になっています。「PBで差別化する」という戦略がスーパー業界の共通言語になりつつある今、この流れは食品メーカーとそこで働く人材にとって、無視できない地殻変動です。
ベイシアとはどんな会社か

ベイシアは群馬県前橋市に本部を置き、関東を中心に1都14県で137店舗(2026年2月末)を展開するスーパーマーケットです。2025年2月期の売上高は3,418億円で、創業以来赤字決算は一度もありません。カインズ・ワークマンなど約34社からなるベイシアグループの中核企業であり、グループ総売上は2025年2月期で約1.19兆円に達しています。
規模でいえばイオン・セブンには遠く及びませんが、「よりよいものをより安く」という創業以来の方針のもと、広い売り場と高コスパ訴求で北関東を中心に強固な支持を得ています。三心・大都・トップワンなどの地域スーパーを相次いでグループに取り込み、2025年以降も拡大路線を加速させています。
ベイシアがどんな企業・スーパーマーケットなのかはこちらの記事で詳しく解説しています。

ベイシアが語ったPB戦略の中身

2019年からの先行投資・2021年に専用ラボを設置
ベイシアがPB冷凍食品の強化を本格的に検討し始めたのは、コロナ禍以前の2019年頃です。「人口減少や女性の社会進出を踏まえたとき、冷凍食品は確実に伸びる」という先読みのもと、他社に先駆けて広い冷凍食品売場を維持し、2020年から展開を強化。2021年には社内に専用の開発ラボを設置しました。他の部門より多くの開発担当者を配置するという人員投資も行っており、「想定以上の推移」という結果が出ています。
注目すべきは、この判断がトレンドに乗ったものではなく、市場の構造変化を読んだ先行投資だったという点です。冷凍食品市場が追い風を受けて拡大する前から布石を打っていたことが、今の「価格の安さ+品質の高さ」というポジションにつながっています。
「プレミアム」と「プライスPB」の2軸・棚の30%をPBにする未来
ベイシアのPB展開はクオリティブランド「ベイシアプレミアム」と価格訴求型「プライスPB」の2軸で構成されています。プライスPBでは、品質には問題ないが形が不ぞろいで出荷できなかった素材を活用した商品も展開するなど、フードロス削減と低価格化を両立する設計になっています。
食品PBの売上構成比は現在15%超。これを2年以内に20%・将来的には30%にするという目標は、食品売場の棚の3割をPBが占める状態を意味します。この30%という数字が実現した場合、現在NBメーカーが占めている棚面積は確実に縮小します。「人口減少でシュリンクする市場で生き残るには武器が必要で、そのために差別化につながるオリジナル商品の提案に力を注いでいる」という須永氏の言葉は、戦略の本質を率直に語っています。
これはベイシアだけの話ではない

セブンプレミアム1兆5000億円・トップバリュ1兆983億円という現実
業界全体を見渡すと、PBの規模拡大はさらに大きな次元で進行しています。セブン&アイ・ホールディングスのPB「セブンプレミアム」は2024年度(25年2月期)に年間売上高1兆5000億円を初めて突破しました。イオングループの「トップバリュ」は2024年度に前年比8.3%増の1兆983億円に達し、2026年2月期は1兆2000億円超が見通しです。上位2社だけでPB売上は合計2兆5000億円を超えています。
さらに注目すべきは「PBの外販」という新たな動きです。セコマ・成城石井などが自社PBを他チェーンへ供給する製造卸的な展開を始めており、小売がメーカーとして機能する時代が始まっています。PBは「自分の店で売る独自商品」という概念を超え、食品流通の構造そのものを変え始めています(ダイヤモンド・チェーンストアオンライン、2026年4月)。
物価高×人口減少がPB拡大を加速させる構造
なぜ今これほどPBが加速しているのか。矢野経済研究所の分析では、物価高騰による生活防衛意識の高まりからNB商品の販売が伸び悩む一方、PB商品の売上が伸長するという傾向が鮮明になっています。消費者の節約志向が強まるほどPBが売れる構造は、インフレが続く限り自動的に続きます。
加えて人口減少という問題があります。市場が縮小する中でシェアを確保するには、自社でしか買えないPBが顧客の来店動機を作る数少ない手段となります。ベイシアの須永氏が「人口減少でシュリンクする市場で生き残るには武器が必要」と述べたのはこの文脈です。物価高と人口減少という2つの構造的な圧力が重なる今の日本で、PB強化は選択肢ではなく生存戦略として各社に迫られています。
PB拡大が食品メーカーと現場に与える影響

NBの棚が削られ、OEM製造は増えるが価格交渉力は弱まる
スーパーのPB比率が上がることは、NBメーカーの棚面積が縮小することを意味します。業界メディアでは「PB偏重」が加速する中でNBの集約・絞り込みが進むという見方が広がっており、特に中小食品メーカーのNB商品は棚から押し出されるリスクが高まっています。
一方でスーパーはPB商品の製造を食品メーカーにOEM委託するケースが大半です。OEM受注は食品メーカーにとって売上になりますが、価格交渉力の非対称性という問題があります。農林水産省の調査では、弁当・惣菜・めん類・パン・菓子製造業は食品製造業の中でも特に労働生産性が低い業種とされており、PB製造の主力となるこれらのカテゴリーでメーカー側の収益圧迫は慢性化しています。「売上は増えても利益が出ない」という状況がOEM依存度が高まるほど深刻になるリスクがあります。
食品メーカー出身者がスーパーで求められる理由
この流れの中でスーパー業界の採用において注目が高まっているのが、食品メーカー出身の人材です。PBの商品開発・品質管理・OEM製造委託先との交渉には、食品製造の現場感覚と原価構造の理解が不可欠です。ベイシアが「冷凍食品の開発担当者を他の部門よりも多く配置する」と明言したことは、この領域に専門人材を継続的に採用していくというシグナルでもあります。
食品メーカーで営業・品質管理・商品開発を経験した人材にとって、スーパーのバイヤー職やPB開発担当は「メーカー側の経験が小売側の武器になる」キャリアパスとして現実的な選択肢になりつつあります。PB市場が2030年に15兆円へ拡大するという予測が現実になるほど、この動きは加速します。
まとめ
ベイシアのPB強化宣言は、スーパー業界全体で進行するPB拡大競争の一端に過ぎません。セブンプレミアム1兆5000億円・トップバリュ1兆983億円・PB市場全体で2030年に15兆円という数字が示すように、PBはすでに食品流通の主役の一角を担っています。物価高と人口減少という2つの構造的な圧力がこの流れを加速させ続けます。
NBメーカーの棚が縮小し、OEM製造依存が深まる一方で、食品メーカー出身者がスーパーのPB開発・バイヤー職で活躍するというキャリアパスはより現実的になっていきます。「どちら側にいるか」ではなく「自分のスキルをどの文脈で活かすか」を考えるタイミングが来ています。
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引用元:https://topics.smt.docomo.ne.jp/article/ssnp/business/ssnp-20260519-685141?page=2


