鮮魚を扱う販売事業を始める際には、販売形態によって必要になる営業許可や手続きが異なります。
移動販売やネット販売は気軽に始めやすい印象がありますが、食品を取り扱う以上は店舗と同様にルールを守ることが求められます。
本記事では、実店舗での営業はもちろん、移動販売・ネット販売における鮮魚販売の許可の取り方や手続きの流れについて詳しく解説します。
鮮魚販売に必要な許可とは

鮮魚販売には食品衛生法に基づく営業許可が必要となります。取り扱う商品や販売形態によって必要な許可の種類が変わるため、事前に管轄の保健所へ確認することが大切です。
鮮魚を売るには「営業許可」が必要?
鮮魚販売を行う際に必要となる許可は、主に「魚介類販売業許可」です。これは保健所の管轄であり、衛生面のルールに従って安全を確保した営業をするために必要となります。
魚は生ものゆえに取り扱いが難しく、設備や衛生管理体制も他の食品に比べて厳密な基準が課されています。
販売する形態によっては届出だけで営業できる場合もあり、加工行為の有無や取り扱う商品状態によっては「水産製品製造業許可」が必要になるケースもあります。
法律の背景と食品衛生法のポイント
食品衛生法は、食品の安全性を確保するため、食品を扱う事業者に対して営業許可の取得を義務付けています。
特に生鮮食品である魚介類は、温度管理や保存状態の管理が適切でないと食中毒などの健康被害を引き起こす可能性が高く、厳格な規制の対象となっています。
衛生管理の観点では、施設ごとに食品衛生責任者の配置が義務付けられており、講習などを受けて資格を取得する必要があります。
許可を取るための施設基準には、作業場や保管場所の清潔さ、設備の洗浄・殺菌対策などが定められています。
参考サイト:東京都保健医療局 改正食品衛生法の営業許可と届出(令和3年6月1日から施行)
販売方法によって異なる必要な許可

販売方法ごとに、取得すべき許可と主な注意点を一覧にまとめると以下の通りです。運用時には自治体の保健所・行政サイトによる最新要件も合わせて確認しましょう。
| 販売形態 | 主な許可 | 特徴的な要件 |
|---|---|---|
| 実店舗(鮮魚店・スーパー) | 魚介類販売業許可 | 固定施設での厳密な施設基準 |
| 移動販売・マルシェ | 魚介類販売業許可 | 車内設備の整備と温度管理 |
| ネット販売・EC・フリマ | 魚介類販売業許可 | ラベル表示とクール便配送 |
実店舗で販売する場合(鮮魚店・スーパーなど)
固定店舗での鮮魚販売では、施設基準を満たし、食品衛生責任者を配置した上で営業許可を取得します。
施設基準
清潔な販売スペースの確保、冷蔵・冷凍設備の適切な設置が必須です。複数の洗浄シンクで交差汚染を防ぎ、作業場と販売エリアを明確に区分します。
手続きの流れ
店舗のレイアウト図を作成後、保健所に相談します。申請書類提出、施設調査を経て許可が交付されます。オープン日から逆算した準備が大切です。
食品衛生責任者の配置
講習会受講により資格取得し、店舗の衛生管理やスタッフ教育を担います。
移動販売・マルシェでの出店
移動販売車やマルシェでの鮮魚販売では、限られたスペースでの効率的な設備配置と、移動中の品質管理が求められます。
車内設備の要件
車内洗浄設備、冷蔵・冷凍設備の配置により、移動中や販売中の品質管理を行います。
申請と承認
車両のレイアウト図や保冷設備の仕様書を提出し、事前に保健所から承認を得ます。マルシェやイベント出店時は主催者の取り決めに従い、追加書類が必要な場合もあります。
温度管理の注意点
気温や天候の影響を受けやすいため、水温管理や冷却装置の点検をこまめに行います。
ネット販売・EC・フリマアプリでの販売
オンラインでの鮮魚販売であっても、食品衛生法に基づく**「魚介類販売業許可」**が原則必要です。販売方法が実店舗でなくとも、食品を継続的に不特定多数に提供する場合は事業とみなされ、営業許可の対象になります。
ラベル表示と食品表示法への対応
インターネット販売でも食品表示法が適用されます。原材料名、内容量、保存方法、消費期限などを適切にラベルに記載する必要があります。これはフリマアプリを利用した場合でも例外ではありません。
フリマアプリ・SNSでの販売における注意点
手軽に出品できるフリマアプリやSNSであっても、生鮮食品を繰り返し販売する場合には営業許可が必要です。また、出品を禁止しているプラットフォームもあるため、利用規約を事前に確認することが必須です。
よく混同される許可・資格の違い

鮮魚を扱う際によくある混同ポイントとして、販売業と製造業の違い、そして食品衛生責任者の要否があります。それぞれの違いを正しく理解して、適切な許可を取得しましょう。
魚介類販売業と水産製品製造業の違い
鮮魚販売においては、「どのように魚を扱うか」によっても取得すべき許可が異なります。
とくに「切り身で売るだけ」の場合と、「加工食品として仕上げて売る」場合では、許可の区分が大きく異なります。以下に、魚介類販売業と水産製品製造業の主な違いをまとめます。
| 許可の種類 | 対象となる営業内容 | 主な設備要件 |
|---|---|---|
| 魚介類販売業 | 丸のままの鮮魚販売、切り身程度の簡易加工 | 販売スペース、冷蔵設備、洗浄設備 |
| 水産製品製造業 | 干物・燻製・練り物などの本格加工品製造 | 加工室と販売スペースの分離、専用機械設備 |
魚介類販売業は基本的に丸のままの鮮魚や、包装済みの魚を販売するものであり、切り身にする程度の簡易な加工であればこの許可で対応できる場合が多いです。
一方、干物や燻製、練り物など本格的な加工品を作る場合は、水産製品製造業の許可が必要になります。
食品衛生責任者は必要?
食品衛生責任者は、営業許可取得の際に必ず配置が求められる資格です。調理師や栄養士など既に資格を持っている人や、所定の講習を修了した人が食品衛生責任者になれます。
この責任者は、施設内の衛生管理を統括し、適切な温度管理やスタッフ教育で食中毒・食の安全に関するリスクを最小限に抑える役割を担います。
講習は定期的に開催されており、半日から1日程度の受講で資格が取得できます。
参考サイト:公正労働省 食品衛生法第51条
鮮魚販売の許可取得の流れと準備書類

実際に営業許可を取得するには、保健所への事前相談から施設調査まで、複数のステップを踏む必要があります。
計画段階で保健所に相談することで、スムーズな許可取得が可能になります。このセクションでは、申請から交付までの流れと、必要書類の種類を具体的に解説します。
許可申請のステップ
許可取得までの流れは以下の通りです。
- 事前相談:保健所で販売形態や施設レイアウトを相談
- 施設図面作成:必要な設備を洗い出し、図面を作成
- 申請書類提出:営業許可申請書などの必要書類を提出
- 書類審査:保健所による書類内容の確認
- 現地調査:施設や車両の実地調査
- 改善対応:指摘事項があれば改善し再調査
- 許可証交付:基準をクリアすれば営業許可証が発行
保健所の審査をクリアしたら、現地調査(車両の場合は車内調査)が行われ、基準を満たしているかどうかが確認されます。問題がなければ、最終的に営業許可証が交付されます。
主な提出書類
営業許可申請に必要な書類は、自治体によって若干異なりますが、一般的には以下の書類が求められます。
書類の記入漏れや提出ミスがあると手続きがストップしてしまい、予定のオープン日が遅れる可能性もあります。チェックリストを作成して、抜け漏れのないようにしましょう。
- 営業許可申請書
- 施設の平面図(配置図)
- 食品衛生責任者の資格証
- 誓約書
- 設備や取扱工程の説明資料
- 水質検査成績書(必要に応じて)
開業する都道府県や営業形態によって必要書類が異なる場合があるので、必ず管轄保健所の案内も確認してください。
許可取得に関するよくある質問
鮮魚販売の営業許可に関して寄せられることの多い質問をQ&A形式で整理しました。開業前にチェックしておきましょう。
- 自宅のキッチンで魚をさばいて販売しても大丈夫ですか?
-
多くの場合、家庭用キッチンは食品営業の基準(専用の作業スペースや洗浄・冷蔵設備など)を満たしていません。そのまま営業許可を取ることは難しく、改装や設備の追加が必要になることが多く、自宅での営業を検討する際は、事前に必ず保健所に相談しましょう。
- フリマアプリやSNSで魚を売るときも許可は必要ですか?
-
はい、販売プラットフォームがフリマアプリやSNSであっても、鮮魚を継続的に販売する場合は営業許可が必要です。個人間の取引であっても、事業性があると判断される場合は食品衛生法の適用を受けます。
- 加工していない冷凍魚も「魚介類販売業」に該当しますか?
-
冷凍魚であっても販売行為を行う場合は魚介類販売業許可が必要です。冷凍であることと許可の要否は直接関係がありません。ただし、冷凍品の場合は保存設備や解凍時の衛生管理について特別な配慮が必要になります。
参考サイト:厚生労働省「営業許可業種の解説」
営業後に必要な管理と更新

営業を開始した後も、衛生管理や定期的な許可更新が欠かせません。特にHACCPに沿った管理や、変更届・更新手続きの対応が求められます。
HACCPに沿った衛生管理
現在、食品業界では*HACCP(ハサップ)に沿った衛生管理が推進されています。これは原料受け入れから出荷まで、すべての工程で食中毒リスクを管理する手法です。
鮮魚販売でも、仕入れ時の検品、保存温度のチェック、販売時の温度移行管理などをシステム化し、記録として残しておくことが推奨されています。HACCP対応をきちんと行えばトラブルを未然に防ぎやすく、消費者に対しても安全性や品質の高さをアピールしやすくなります。
*HACCP(ハサップ)
食品の安全を確保するための衛生管理手法で、製造工程の各段階において発生しうる危害要因(微生物汚染、異物混入、化学物質の影響など)を特定し、重点的に管理するシステムです。各工程で適切な予防措置を講じることで、食品の安全性を高めます。
参考サイト:厚生労働省 HACCP入門のための手引書
許可の更新や変更時の対応
営業許可は通常、数年ごとの期限が設定されています。有効期限が迫ったら早めに更新手続きを行いましょう。更新時も施設調査や書類提出が必要となるケースがあるので、余裕をもって準備します。
営業内容を大幅に変更する場合や、販売形態を増やす場合も追加の許可や届出が必要になることがあります。行政への申請が遅れてしまうと、無許可営業状態になってしまうリスクがあるため注意が必要です。
オンライン販売で押さえておきたい実務ポイント

オンライン販売では、法令対応だけでなく、「売れる仕組み」づくりが重要です。顧客との信頼関係を築くための情報提供や配送体制を整えることで、リピーター獲得にもつながります。
ラベル表示と食品表示法の基本
ネット販売においては、商品購入前に情報をオンラインで明示し、届いた商品にもラベル表示を施す必要があります。必要な主な項目は以下のとおりです。
- 品名(商品名)
- 原材料名
- 内容量
- 消費期限または賞味期限
- 保存方法
- 製造者または販売者の名称・住所
特に生鮮食品は、保存温度や賞味期限が変化しやすいため、正確な情報を提供することが求められます。
参考サイト:消費者庁
「インターネット販売における食品表示の 情報提供に関するガイドブックについて」
配送方法と鮮度管理
商品の鮮度を維持するためには、冷蔵・冷凍便の使い分けや保冷資材(保冷剤・発泡スチロール箱)の活用が欠かせません。「届いてすぐ食べられる」ように、簡単な調理法やおすすめの食べ方を同梱する工夫も効果的です。
販路を広げるための工夫
ネット通販を軸に鮮魚を販売する場合、ECモール(楽天市場・Yahoo!ショッピングなど)や、産直プラットフォーム、自社ECの構築により販売先を多様化できます。
地域特産の魚や季節限定のスペシャルセットなど、ネットならではの企画を用意することで差別化が図れます。商品の差別化や顧客フォローを工夫し、リピーターの積み重ねで安定した売上を目指しましょう。
SNSでは、産地紹介やレシピ動画を通じて商品やブランドへの親近感を高め、ファンを育てる情報発信が可能です。
まとめ

鮮魚販売は許可の取得だけでなく、長期的な衛生管理と更新手続きによって安定した運営を目指すことが求められます。
店舗や移動販売、ネット販売のいずれにおいても、魚介類販売業許可を基本として、営業形態に応じた追加の許可や届出が必要になります。許可取得後もHACCPに沿った衛生管理やラベル表示の遵守など、継続的に安全と品質を保つ取り組みが欠かせません。
正しい手続きを踏み、安全でおいしい鮮魚を届ける体制を整えることが、消費者からの信頼とリピーター獲得につながります。必要な許可を確実に押さえ、鮮魚販売を成功させてください。
生鮮業界に特化した求人サイト「オイシルキャリア」
生鮮業界での転職をお考えですか?「オイシルキャリア」は、生鮮業界に特化した求人サイトです。鮮魚に関する知識を活かせる仕事や、新たなキャリアに挑戦できる求人を多数掲載!
\ 生鮮業界の求人8,000件以上 /


