青果物の価格は、天候や季節、消費者の動きによって日々変化しています。
「今日はなぜこの野菜が高いの?」「仕入れは今がいいの?」── そんな疑問の背景にあるのが、市場での取引状況、つまり “市況”です。
この記事では、市況の意味やしくみ、市場価格がどう決まるのかをわかりやすく紹介します。小売や飲食、生産の現場で市況がどのように活かされているかや、価格表・相場表・出荷量といったデータの見かたにも触れるので、青果の取引や価格動向に関心のある方は要チェック。初めて読む方でも、流通の流れや価格変動の理由がつかめるような構成になっています。
青果物の「市況」とは? 価格が決まるしくみを知る

まずは、「市況」がどのようなものか、基本を見ていきましょう。
一般の日が日常生活の中でこの言葉を使う機会は少ないかもしれませんが、青果を扱う小売店や卸売業者、生産者のあいだでは、とても重要な情報として日々活用されています。
「市況とは何か」「どうやって価格が決まるのか」「どの現場で使われているのか」基本をご紹介します。
「市況」とは「市場で何が、いくらで取引されてるか」
「市況」とは、文字どおり市場(しじょう)の状況を表す言葉です。
とくに青果物の場合、「どんな品目が」「どれくらいの価格で」「どのくらいの数量、どの産地から出荷されているか」といった取引の実態が、市況としてまとめられます。
たとえば東京都の中央卸売市場では、毎朝の取引をもとに、価格・数量・平均値・取扱数量などの詳細なデータが「市況情報」として公表されています。これにより、当日の流通の全体像や品目ごとの動向が把握できるようになっています。
市況は単なる価格リストではなく、流通の需給バランスを示す “取引の記録”。価格が高騰したり暴落したりした際にも、その背景にある入荷量や需要の強弱を数字から読み取ることができます。
📌 市況って実際どんなもの? 主な形式をチェック!
市況情報は、実務では以下のような形式でまとめられています。価格や数量だけでなく、品目ごとの動向をつかむのに役立ちます。
形式 | 特徴 | 活用例 |
価格表(単価表) | 青果物ごとに「高値」「中値」「安値」や取扱数量を一覧化。例:「キャベツ:高値100円/数量1,200kg」など具体的な取引データを掲載。 | 仕入れ価格の比較、日々の取引状況の確認 |
相場表(概況) | 「強含み」「安値続く」「荷動き鈍い」など、市場全体の傾向を短文コメントで表現。 | 市場の空気感や価格変動の背景把握 |
市況速報・確報 | 速報=スピード重視で大まかな動き、確報=取引データを精査した詳細版。文章形式でまとめられる。 | 現場の判断材料、社内資料や日々の相場確認に利用 |
🔗 参考リンク:実際の市況情報が見られるサイト
青果市場の市況は、各市場や団体の公式サイトでも発表されています。たとえば、東京青果株式会社のWebサイトでは、日々の取引価格や入荷量の速報・確報が公開されています。
👉 東京青果株式会社|市況情報ページ
価格はどう決まる? セリと相対のしくみ
青果物の価格は、どのように決まっているのでしょうか。
価格決定の中心にあるのが、中央卸売市場で毎朝行われる「セリ」と「相対(あいたい)取引」です。
セリは、競り人が進行役となり、出荷された青果物に対して買い手が声を上げて価格を決める方式です。全国の市場で広く行われており、その日の需給バランスが価格に反映されやすいのが特徴です。
一方、相対取引は、事前に売り手(卸売業者)と買い手(仲卸業者や売買参加者)のあいだで価格や数量を決めておく方法です。
近年では相対の比率が高まっており、安定供給や品質指定が求められる量販店や加工業者などに向けた出荷で多く使われています。
これら2つの取引によって、その日の価格が市場内で形成され、「市況」としてまとめられます。価格は「高い・安い」だけでなく、数量や鮮度、産地、入荷量の増減など複合的な要因によって日々変動しています。

市況を使っているのは、小売・卸・生産の現場
市況情報は、青果物の流通を支えるさまざまな現場で活用されています。
小売店では仕入れや販売方針の検討に、卸や仲卸では入荷量の調整や価格交渉に、生産者のあいだでは出荷や作付けの判断材料として利用されています。
どの立場においても、市況は「いま市場がどう動いているか」を客観的に知るための情報源となり、仕入れ・販売・出荷といった意思決定を支えています。
季節・天候・イベント… 市況が変化する3つの要因とは?

青果物の市況が変化する背景には、明確な変動要因があります。ここからは、市況に大きく影響を与える代表的な3つの要因「季節・天候・イベント」についてそれぞれ見ていきましょう。
要因①:天候の影響(台風・猛暑・長雨など)
青果物は自然の中で育つため、天候の影響を非常に受けやすい作物です。たとえば、台風の直撃や長雨による畑の冠水、猛暑による生育不良などは、出荷量の減少を引き起こし、価格の高騰につながることがあります。
逆に、天候に恵まれて収穫量が増えれば、一気に価格が下がることも。とくに露地栽培(ハウスではなく屋外)されている品目では、気象条件が市況にダイレクトに反映されます。
また、同じ品目でも産地が分散している場合、西日本の産地では台風の影響を受けたが、東日本の産地は無事だったというケースもあり、全体の市況は産地間のバランスにも左右されます。
要因②:需要の波(年末年始・行楽期など)
供給だけでなく、消費者の動き(需要)も市況の大きな変動要因です。たとえば、年末年始の正月野菜、ひな祭り前のいちご、行楽シーズンの果物など、イベントに合わせて特定の品目の需要が急増することがあります。
また、気温が上がると生野菜や果物の需要が増え、寒くなると根菜類や鍋野菜が伸びるといった傾向も見られます。こうした季節ごとの“食のニーズ”の変化が、市況に反映されるのです。
スーパーなどの店頭でよく見る「○○フェア」や「旬の○○入荷しました」といった販促も、こうした需要の波に合わせた動きです。需要が高まる時期に備えて、仕入れや出荷のタイミングを考えるうえでも、市況は重要な参考材料となります。
要因③:品目ごとの特性(キャベツ・みかんなど)
市況は、品目ごとに異なる“特性”にも左右されます。
たとえばキャベツやレタスは収穫から出荷までのサイクルが短く、天候や需給の影響を受けやすい品目です。そのため、価格が乱高下しやすい “相場品”として知られています。
一方、みかんやりんごのように一定期間保存・追熟が可能な果物類は、出荷量の調整がしやすく、比較的価格が安定しやすい傾向があります。
また、産地の集中具合や栽培面積、収穫時期の長さによっても変動のしやすさは異なります。こうした品目ごとの“価格変動のクセ”を知ることも、市況を読み解くうえで大切なポイントになります。
市況が荒れやすいタイミングとは?
青果物の市況は、「年間の流れ」だけでなく、月単位・週単位・日単位で細かく動いています。生鮮食品のように賞味期限が短い商材では、そのときどきの “タイミング”による変化がとても大きく、毎日の市況チェックが欠かせません。
たとえば、以下のようなパターンが代表的です。
- 週明け(月曜日):出荷量が少なくなりやすく、価格が上がりやすい
- 週末・祝日前:買い物需要の増加で相場が動きやすい
- 月末・月初:売り場の切り替えや特売企画で、価格に変動が生じやすい
- 旬の変わり目:旬の出始めや、ハウス栽培から露地ものへの切り替える端境期(はざかいき)は供給が不安定になりやすく、価格の乱高下が起こることも
こうした「日・旬・月ごとの特徴」を意識して市況を見ることで、変化の兆しに早く気づけるようになります。単に価格の上下を見るだけでなく、「なぜいま動いているのか」「次はどう動きそうか」を予測する視点が、現場では非常に重要視されています。
市況はどのように活かされている? 現場ごとの使われ方を紹介

では、市況は具体的にどのような場面で使われているのでしょうか。
ここからは、スーパーマーケットなど小売の仕入れ判断、生産者や出荷団体による出荷タイミングの調整、店舗での値付けや販促企画といった実務の場面で、市況がどのように役立っているのかをご紹介します。
市況は「仕入れ判断」の材料になる
青果専門店やスーパーマーケットなどの小売現場では、市況情報が仕入れの判断材料として日々使われています。
たとえば「今日はトマトが高いから、仕入れは控えめに」「産地が変わる時期なので品質に注意」といったように、価格や数量だけでなく産地・規格・品種の情報もあわせて確認し、売り場の組み立てを考えます。
価格が高騰している場合には、パック売りからバラ売りに切り替える、広告から外すといった工夫も行われます。
市況をチェックすることは、ただ安い品を仕入れるためだけではなく、売り場づくり全体を見通した戦略的な仕入れにつながっているのです。
市況は「出荷タイミング」を考える手がかりになる
生産者や農協などの出荷団体にとって、市況情報は「いつ、どの品目を出荷するか」を見極めるための重要な判断材料となります。とくに収穫時期に幅がある品目では、相場の動きを見ながら出荷量を調整するケースが少なくありません。
たとえばキャベツやレタスなどの葉物野菜では、出荷のピークでは価格が下がり、端境期や出荷の谷間では高騰する傾向があります。
こうした相場の変化を見て「今日は弱いから控えよう」「あと数日待てば上がりそう」といった出荷調整が行われでいるのです。
さらに、市況は袋詰め・加工・冷蔵調整といった出荷直前の段取りにも活用されています。
「今出すべきか、少し寝かせるべきか」といった判断が、作業の効率化やロスの軽減にもつながっています。
市況は「値付け」や「販促」の根拠として活かされている
市況情報は、青果物の販売価格を決める「値付け」や、チラシ・広告といった販促活動の土台にもなります。
たとえば、前日の市場価格を見て「今日はタマネギが安かったから特売に」「きのこ類は高騰しているので価格は据え置きに」といった細かな調整が行われています。
また、売り場で使う値札やPOPの文言も、市況の高騰・下落にあわせて調整されます。「今が底値」「旬で価格も安定」といったフレーズは、納得感のある価格設定や売り場全体の打ち出しに直結するからです。
このように、市況は仕入れや出荷だけでなく、販売現場での価格戦略や販促活動にも深く関わっているのです。
市況を理解するうえで押さえておきたい4つの視点

ここまで見てきたとおり、市況情報は、仕入れ・出荷・値付けなど青果流通のあらゆる場面で役立つ便利なツールです。その一方で同じ価格の動きでも、生産者・卸売会社・小売など、立場によって受け止め方が異なることがあります。
最後は、市況を読み解く際にどのような点が意識されているのか、代表的な4つの視点を紹介します。
「速報」と「確報」、どう違う?
市況情報には、「速報」と「確報」の2種類があります。これは情報が発表されるタイミングや内容の精度に関わるもので、使い方にも違いがあります。
速報は、その日の取引が終わった直後に出される簡易的なデータです。スピードを重視しており、小売店や出荷関係者が当日の対応を考えるための目安として使われます。ただし一部の取引が反映されていないこともあるため、「おおまかな傾向をつかむための情報」として活用されます。
一方で確報は、すべての取引を集計し、精度を高めた正式なデータです。平均価格や取扱数量なども確定しているため、過去の市況と比較したり、月ごとの動向を分析したりと、社内資料として用いる際にも信頼性があります。
たとえば、「速報では高値に見えたが、確報で見るとそれほどでもなかった」というケースも少なくありません。日々の動向を把握するなら速報、正確なデータで振り返るなら確報—— と目的に応じて、適切に使い分けることが重要です。
市況データにもズレはある!
市況データは非常に参考になりますが、実際の現場感覚とズレが生じることもあります。なかでも注意したいのが、「平均価格」や「取扱数量」の読み取り方です。
たとえば、同じキャベツでも、産地やサイズによって価格が大きく異なります。しかし市況では、それらをひとまとめにして平均値として示すため、実際に扱っている規格と合わないことがあります。
このように商品のばらつきが大きい場合、平均価格が高く出ていても、実際には特売品や規格外の商品が多く出回っているケースも珍しくありません。
また、価格が乱高下した日は、取引時間帯の違いによって、市況データと実感が食い違うこともあります。
このようなズレがあるため、現場では、データはあくまで「目安」として捉えられています。
数量と価格、どう読み取る?
市況情報では、品目ごとに「価格」と「取扱数量」がセットで示されるのが一般的です。価格の動きだけでなく、その背景にある数量にも注目することで、相場の流れがより明確に見えてきます。
たとえば、価格が高騰していても、そもそも入荷量が極端に少なかっただけというケースもあります。逆に、価格が安定していても取扱数量が多ければ、それだけ需要に応じた供給がなされていると読み取ることができます。
このように、数量と価格が必ずしも連動するとは限らないため、「数量は減っているのに価格は横ばい」「価格が上がっても数量も多い」といったケースも見られます。現場では、こうした数量と価格の関係から需給バランスを読み取り、市況を判断材料のひとつとして活用しているのです。
まとめ
普段の生活ではなかなか馴染みのない「市況」ですが、青果物の流通現場では、毎日の仕入れや出荷判断、価格設定に欠かせない情報となっています。
ただし、市況の数字には、速報・確報の違いや平均値のばらつきなど、読み取る際に前提として理解しておきたい要素も含まれています。とくに、価格と数量はそれぞれ単独で見るのではなく、あわせて把握することで実態に近づきます。さらに、その背後にある需給の動きや産地の事情、季節要因なども、市況を読み解く上で無視できません。
市況は、単なる価格表ではなく、“いま市場で何が起きているか”を知るための手がかり。価格の背景を読み解き、流通の動きを捉えるために欠かせない視点なのです。
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