“貿易”を意識させない魚屋でありたい『株式会社クレイドル』齋藤氏が語る、本物を届ける仕事のあり方

  • URLをコピーしました!

この記事の監修

監修者のアバター       葛川英雄      

水産市場の競り人、生鮮食品業界、人材業界で培った豊富な経験を持つ食のプロフェッショナル。現在は株式会社オイシルの代表取締役として、10年以上の業界経験を活かし、生鮮業界やスーパーマーケット業界の発展に貢献しています。

目次

企業プロフィール

株式会社クレイドル
所在地:千葉県船橋市本町1丁目18番10号 ヨロズヤビル4F-B
代表者:齋藤伸也
事業内容:水産物の輸入卸、水産物・和食材の輸出、三国間貿易
主要取引国:アメリカ、カナダ、韓国、シンガポール、ドバイ、カタール、レバノン など
年商:約5億円

北海道・帯広で育ち、大学卒業後にニューヨークで水産物貿易の世界に足を踏み入れた斎藤氏。現地の日系商社での経験を経て独立し、2006年に株式会社クレイドルを設立。現在は “生ウニ”を中心に、日本を含む多拠点を結ぶ水産物の輸出入や三国間貿易を展開中だ。

商品の扱いにおいて一貫してきたのは、「なぜこれが本物か」を説明できること。その信念のもと、国や文化を越えて “理由ある美味しさ”を自然な形で届ける仕組みづくりに挑んできた。

今回は、斎藤氏に事業への想いや働き方、育成方針、今後の展望についてお話を伺った。

※ 質問に続く言葉は齋藤氏のもの、「——」はインタビュアーのものとして記載。

Q1. クレイドルはどのような会社なのでしょうか?

齋藤氏: はい、現在は水産物の輸入・輸出、そして三国間取引、私は “トライアングルトレード”と呼んでいますが、そちらが主な事業です。

割合的には、とくに今年は三国間取引が圧倒的に多く5割、輸出が3割、輸入が2割といったところです。扱っているのは、100%生ウニです。

—— 生ウニに絞っていらっしゃるのですね。

そうなんです。会社を立ち上げたのは2006年で、今季で20期目に入りますが、設立当初はウニに限らず、あんこう、あん肝、ヒラメ、ロブスターなどの水産物全般を扱っていました。ほかにも、腕時計やブランドバッグといった並行輸入品を扱っていた時期もあります。

—— いまはそういった雑貨等の輸入はやっていないのですか?

そうですね。現在は完全に水産物に特化しています。やはり、食に携わりたいという思いがありますし、とくに日本の水産物は世界一だと思ってるんです。

だからこそ、それを世界中に届けたい、広めたいという想いがありました。ちょっと生意気かもしれませんが、そういう気持ちでやってきました。

—— たしかに、日本の魚は世界でも評価が高いと聞きます。

それはよく言われますね。基本的に私が目指したのは日本の水産物日本の魚を買っていただくときに、極力「貿易」という言葉を意識させないような形なんです。

たとえば、海外のホテルのシェフが電話一本入れたら、3日後には魚が届く… そういう体制を取りたかったんです。実際に、コロナ前まではそうした取引も何件か実現できていました。

—— それは、物流だけでなく手続き面のハードルもかなり高そうですね。

ええ。法律や貿易手続きなど、乗り越えるべき課題は多いです。でも、それゆえに大手商社はなかなかビジネスとして魅力を感じないような領域なんですよ。そこに、僕らのような小さな企業の入り込む余地があるんじゃないかと。そういう部分が我が社の強みだと思っています。

三国間取引、生ウニ特化、そして「本当に良いものを最適なルートで届けたい」という普遍的な想い。それらを支えているのは、「貿易を意識させない貿易」を実現するという、齋藤氏ならではの挑戦的なスタンスである。煩雑な手続きや物流の壁を越えてなお、「本当に良いものを最適な形で届ける」という姿勢に、同社のビジネスとしての強さが垣間見える。

Q2. では、会社が大切にしていることを教えて下さい。理念や掲げている目標などはありますか?

齋藤氏: 残念ながら、あまりそういうワードにしていないんです。あまりにも忙しくて、そういうことを考える暇があまりなかったということもあります。

—— 目の前のお客さまに集中されていたのですね。でも、何か信念のようなものはお持ちですよね?

結果論かもしれませんが、やはり「本物」にこだわることですね。美味しいもの、ちゃんとしたもの、なぜ美味しいのか、なぜこれが本物なのか、なぜ偽物じゃ駄目なのか、一つ一つの理由をきちんと明確にすることを大事にしてきました。

美味しいものって、やはり人の心を掴むんですよね。人間って美味しいものを口にすると、自然と納得するというか、説得力があるんです。抽象的な言い方にはなりますが、「本物には力がある」「本物は強い」と私は思っています。

「ウニであれば何でもいい、ウニであれば高い値段が取れる」といった価値観で商売している輸入業者もいましたけれども、私はそうではなかった。「なぜこのウニが高いのか」と説明がつかないもの、胸を張って出せないものについては、仕入れない・出さないという姿勢を貫きました。

実際、そうした考え方は当初、同業者からかなり馬鹿にされましたね。「そんなことをしてもビジネスとして成り立たないだろう」と言われたこともありました。

でも結果的には、こちらから営業をかけなくても、お客様の方から継続的に買ってくださるようになって、収益にもつながったと感じています。

—— ウニといえば、品質面で「ミョウバン」の存在を気にされる方も多いと思いますが、そのあたりはどう捉えていますか?

そこも「本物」にこだわる上での一つの基準だと思っています。実は、鮮度が良ければミョウバンは抜けるんですよ。逆に、鮮度が悪いからこそミョウバンが残る。つまり、ミョウバンそのものが悪なのではなく、鮮度が鍵なんです。

もちろん、理想を言えば獲ってすぐに提供できれば一番ですが、それは現実的に難しい。だからこそ、可能な限り鮮度を追求し、「本物」としてお届けできるものを扱うようにしています。

“本物には力がある”という言葉は、齋藤氏の信念を端的に表している。あえて理念やスローガンを掲げず、商品そのものの説得力で勝負する姿勢は、クレイドルの事業の根底を成しているといえる。
同業他社の常識に迎合せず、「なぜ高いのか」と説明できるものだけを扱うという方針は、結果的に顧客の信頼を集め、営業に頼らずとも、確かな評価を得るまでになった要因の一つなのではないだろうか。

Q3.  三国間貿易、輸出入についてイメージが湧きにくい方もいるかと思いますが、業務内容はどういったものになりますか?

齋藤氏: 一般的に言えば「貿易事務」ということになると思います。とはいえ、ITなどがこれだけ発展してきた今の世の中で、私が目指しているのは、「食の世界で国境をなくしたい」ということなんです。

求人情報などでは「貿易」という言葉が使われると、「英語を使ってビジネスをする」「外国語での商談」など、かっこいいイメージが先行することも多いと思うのですが、私にとっての貿易はもっとシンプルで、「美味しいものを、いかに安く、心を込めてお客様に届けるか」なんです。

それがたまたま国境をいくつか越えるというだけであって、本質は「いかに美味しいものを、できるだけ早く食卓に届けるか」に尽きるんです。

—— 美味しいものを届けるという視点が印象的ですね。では、実際の業務はどういったものになるのでしょうか?

加えて重要なのが、仕入先・販売先双方との交渉です。うちは三国間貿易が中心なので、信頼関係の構築が非常に大切になります。

たとえば、カナダで買ったウニを韓国のお客様に販売するというケース。物流としてはカナダから韓国に直接飛びますが、その間を私たちがコーディネートして、初めて成り立つ商売です。でも、取引先同士が直接やり取りを始めてしまう、いわゆる “飛び越え”のようなケースも珍しくはありません。

——なるほど。これは防止できないものなのですか?

この業界には「NCNDA」と呼ばれる、取引先同士が直接連絡を取らないという趣旨の一般的な契約書もあります。でも、私たちは基本的にそれを求めていません。

もし直接やり取りされてしまうのであれば、それは私たちに力がなかったということなんです。「クレイドルにお願いしたい」と思ってもらえなかった結果だと捉えています。

実際、当社はガツガツと営業してきたわけではありません。むしろ、お客様のご要望に丁寧に応えてきたことで、信頼関係が築けてきたのだと思います。

もちろん、世界中から物を集めて世界中に売るようなビジネスであれば、複雑な契約で自分たちを守る必要があるとは思います。ただ、私は「魚屋」としてこの仕事をしているつもりです。トレーダーではなく、あくまで水産商社でありたいんです。

「魚屋でありたい」と語る齋藤氏の言葉には、華やかな国際取引の裏側で、一件一件の取引相手と誠実に向き合ってきた姿勢がにじむ。あえて契約で縛らず、信頼によって選ばれる存在を目指す考え方は、クレイドルが三国間貿易を続けてこられた理由のひとつだろう。

Q4. では、実際に新しく入社される方は最初どういう業務から始めるのですか?

齋藤氏: うちは少し特殊なのですが、たとえば現在在籍している韓国人のスタッフの場合、高校から日本にいるので日本語も堪能でして、韓国語しか話せないお客さまと我が社との間に入って、通訳や翻訳のような役割を担ってくれていますね。

—— では最初は通訳・翻訳的な部分を行うのでしょうか?貿易事務もあるのでしょうか?

そうですね。現状では、韓国とのやり取りに関して、そのスタッフは通訳・翻訳的な立場で、言葉だけでなく両者の微妙なニュアンスまでうまく調整するような役割を担っています。

そもそも私の考えとして、貿易事務をいくら習得しても、将来的にはそれほど大きな武器にはならないと思っているんです。というのも、「国境を感じさせない流通をつくりたい」というのが我々の目指しているところですから。

もちろん、必要最低限の書類作成などはありますが、基本的には100円で仕入れたものに50円の付加価値をつけて150円で売る、そして150円で購入した方がさらにハッピーになるような、そんな商品づくりや仕組みづくりをしていくことが大事だと考えています。

—— では、たとえば成田空港や羽田空港に出向いて荷物の対応をするような業務はありますか?

今はほとんどないですね。輸出の体制がだいぶ安定しているので、緊急対応が求められるようなケースはかなり少なくなってきました。

Q5. 実際に働いている鄭 康雄(ジョン テウン)さんにお話を伺ってみたいと思います。入社されたのはいつですか?どういうきっかけがあったのでしょうか?

鄭氏: 入社は2024年の12月です。もともと貿易の仕事に興味があり、「楽しそうだな」と思ったのがきっかけでした。最初はサッカー留学で日本に来たのですが、7年ほど過ごす中で日本に好印象を持つようになり、「ここで仕事をしたい」と思うようになりました。

—— 仕事はどうですか?やりがいを感じるのはどんなときでしょうか?

やはり、自分たちが届けた商品を美味しく食べていただいている様子を見たときですね。ネットで調べていると、うちが扱った商品だとわかることがあって、それがやりがいにつながっています。

—— それは嬉しい瞬間ですね。では、逆にこの仕事で驚いたことや、ギャップを感じた点などはありますか?

いえ、とくにギャップは感じていません。イメージ通りの仕事ができていますし、細かい書類を作ったり、お客様とメールでやり取りをしたりする業務が楽しいと感じています。

以前は飲食店で働いていたので、お客様が実際に食べてくださる姿を目の前で見ることで、「自分の仕事が何につながっているのか」という実感がありました。
それに対して、今の貿易の仕事はやり取りの中心が書類になりますが、メッセージや写真などを通してお客様とつながっている実感があります。どちらの仕事にも、それぞれの魅力がありますね。

クレイドルには、それぞれの経験やスキルを起点に、役割を自ら広げていける環境がある。たとえば韓国語を活かして通訳・翻訳のような立ち位置を担う鄭氏のように、語学力や異文化への理解といった個人の強みが、自然と業務の武器として活かされている。
明確なマニュアルや分業体制に頼るのではなく、自分にしかできない価値の出し方を模索できること。それがこの職場ならではの働きがいにつながっているのだろう。

Q6. では、今後の展望を教えてください。現在は100%ウニということですが、他の商品に拡大していくなどの予定はありますか?

齋藤氏: そうですね、ここ最近でいうと、今まさに熱い「お米」の輸入を予定しています。

ただ、こういう時期なので、輸入手続きがものすごく煩雑で。いろいろと勉強させていただくという意味合いでも、チャレンジしているところです。

もちろん会社ですから、できるだけ損は出さないようにしたいですが、たとえ売れるあてがなくても、フードバンクや恵まれない人、子どもたちのための施設に送るなど、そういうかたちで役立てばいいなと思っています。

—— それはすごいですね。では、今後もさまざまなチャレンジを続けていくということですね。

そうですね。今はウニを柱にしていますが、今後は輸出にしても輸入にしても、息が長いもの、安定的なものをひとつふたつ増やしていければと考えています。

具体的には、韓国が一つの可能性だと思っています。若い世代の方々の間では、ものすごくお互いの交流がありますし、文化的にもお互いリスペクトしている部分があると感じています。

せっかくこういう雰囲気になってきているのだから、一時的なブームで終わらせず、何か継続的なものを、食にしても何にしても、一緒に作っていけるんじゃないかと思っています。

ウニという特化領域で築いてきた信頼と実績を礎に、クレイドルは次なるステージを見据えている。新たな商材にも臆せず挑むその姿勢は、利益追求だけでなく、社会的意義や持続性を重視する経営観に裏打ちされている。国や文化を越えて人々の暮らしに寄り添う商いを目指し、同社はこれからも柔軟かつ誠実に、可能性を広げていくはずだ。

Q7. 最後になりますが、クレイドルにはどのような方に入社してもらいたいですか?

齋藤氏: そうですね、やはり「嘘をつかない人」ですね。月並みではありますが。

—— いえいえ、誠実さは重要ですよね。

そうですね。あとは、ありとあらゆることに興味がある、新しいことに貪欲な人がいいですね。「常識にとらわれない人」と言えるかもしれません。

やはり、常にポジティブな理由を探し求められる人のほうが、ネガティブな言い訳を考える人よりも、こちらとしても新しいことをお願いしたくなるものです。

クレイドルが求めているのは、経験や語学力よりも、「嘘をつかない」「新しいことに興味を持てる」という誠実で柔軟な姿勢だ。国や文化を超えた取引の現場では、正解のない問いに向き合う場面も多い。だからこそ、常識にとらわれず、自ら考え、動ける人にこそ向いている環境だと感じた。

なお、このような方にはとくにおすすめしたい企業だ。

  • 異文化を越えて信頼関係を築く仕事に興味がある方
  • 誰かの役に立つ実感を持てる仕事がしたい方
  • 枠にはまらない挑戦におもしろさを感じる方
  • 誠実にコツコツと信頼を積み重ねたい方
  • 自分の強みを活かして仕事の幅を広げたい方

まだ定まった形のない仕事に、挑戦する意志があれば十分だ。自分の力で仕事をつくっていく、そんな醍醐味を味わいたい人に、クレイドルはきっと応えてくれるはずだ。

オイシルキャリアでは、食品業界・生鮮業界の非公開求人を多数取り扱っています!

\ 生鮮業界の求人8,000件以上 /

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次