精肉業界において「歩留まり」は収益性と持続可能性を左右する重要な指標です。
仕入れた肉がどれだけ商品として活用できるかによって、経営の効率性や食品ロスの削減に大きな差が生まれます。適切な歩留まり管理ができれば、同じ仕入れ量からより多くの商品を生み出し、コスト削減と利益率向上を実現できます。
本記事では、精肉の歩留まりに関する基本概念から計算方法や改善策まで解説します。精肉店や食肉加工業、飲食店など、肉を取り扱う事業者の方々に役立つ実用的な情報をお届けします。
精肉の歩留まりとは

精肉業界の収益性を左右する「歩留まり」について、その定義から経営への影響まで基本的な概念を解説します。歩留まり率を正確に把握することは、コスト管理の第一歩となります。
歩留まりの基本定義
歩留まりとは、仕入れた原材料から実際に商品として利用できる部分の割合を示す指標です。精肉業界では、この数値が直接的に収益性に影響します。歩留まりは一般的に次の計算式で求められます。
歩留まり率(%) = (商品化できた精肉の重量 ÷ 仕入れ時の原材料重量) × 100
例えば、10kgの部分肉から7kgの販売可能な精肉が得られた場合、歩留まり率は70%となります。この数値が高いほど原材料の活用効率が良いことを意味し、低ければ廃棄量が多いことを示します。
精肉の製造過程では、枝肉から精肉への加工段階で骨や過剰な脂肪、筋などが取り除かれます。
特に牛肉の場合、生体から枝肉、部分肉、精肉と加工が進むにつれて重量は減少し、最終的に商品として流通するのは生体重量の約36%程度とされています。
歩留まりが経営に与える影響
歩留まり率の変動は、以下のような様々な経営面に影響を及ぼします。
影響項目 | 内容 |
---|---|
原価率への影響 | 同じ量の商品を得るための原材料量増加と原価率上昇 |
廃棄コストの増加 | 除去部分の処理費用の増大と収益性の低下 |
在庫管理の複雑化 | 予測困難による過剰在庫や品切れリスクの上昇 |
品質の一貫性 | 安定した歩留まりによる商品品質の均一化と顧客信頼の獲得 |
特に近年は原材料価格の上昇傾向が続く中、歩留まり改善による原価低減の重要性がさらに高まっています。
精肉の歩留まりが重要な理由

精肉業界において歩留まり管理が重視される背景には、経済的・社会的・品質的な側面からの複合的な理由があります。歩留まり向上は単なるコスト削減以上の多面的なメリットをもたらします。
コスト管理と利益率の向上
精肉業界は薄利多売が基本であり、わずかな原価率の違いが最終的な利益に大きく影響します。歩留まり率を1%向上させるだけでも、年間の仕入れ量が多い事業者にとっては相当な利益改善につながります。
歩留まりの向上は仕入れコストの削減だけでなく、作業効率の改善にも寄与します。適切な歩留まり管理により、同じ量の商品を生産するために必要な作業時間や人員も最適化できるため、人件費の削減にもつながります。
食品ロスの削減
食品ロスの削減は現代社会における重要な課題として広く認識されています。精肉業界においても、歩留まり向上は食品ロス削減に直結する取り組みとして注目されています。
適切な精肉処理により廃棄部分を最小限に抑えることは、単に経済的なメリットだけでなく、廃棄物処理に伴う環境負荷の軽減にも貢献します。
またこうした取り組みは、SDGs(持続可能な開発目標)の達成にも合致するものであり、企業の社会的責任を果たす上でも重要です。
品質と安定供給
歩留まり管理を徹底することで、同じ量の原材料からより多くの商品を安定して製造できるようになります。これにより、需要変動に対しても柔軟に対応できる体制が構築でき、顧客に対する安定供給が可能になります。
また、適切な歩留まり管理は品質の均一化にもつながります。カット技術や温度管理などの標準化を進めることで、商品のばらつきを抑え、顧客満足度の向上に寄与します。
精肉の歩留まりを左右する主な要因

精肉の歩留まりは様々な要因によって左右されます。これらの要因を理解し適切に管理することで、歩留まり率を大幅に改善することが可能になります。ここでは主要な三つの要因について詳しく解説します。
カット技術と処理工程
精肉の歩留まりに最も影響を与える要因の一つが、カット技術です。
熟練した技術者と未熟な作業者との間では、同じ部位からの歩留まり率に10%以上の差が生じることもあります。
特に的確な筋引きによる可食部の過剰ロス防止、適切な脂肪のトリミングにおける過剰除去と過少除去のバランス調整、正確な骨抜きによる骨付近の肉の効率的な回収が歩留まりに大きく影響します。
加工工程の順序や方法も歩留まりに影響します。例えば、カット前の洗浄方法や解凍方法によって水分損失量が変わり、結果として歩留まりにも差が出ます。
温度管理と保存方法
精肉は生鮮食品であるため、温度管理は品質だけでなく歩留まりにも決定的な影響を与えます。
不適切な温度管理は肉の劣化を早め、使用できる部分を減少させる原因となります。解凍時の温度管理では急速解凍による時間短縮とドリップ増加のバランスが課題となっています。
作業場の温度設定においては高温環境下での細胞破壊と品質低下のリスクに注意しなければなりません。また保管温度の一定化により温度変動を防止し、微生物増殖や酸化変色を回避することが重要な要素です。
適切な温度管理を行うことで、ドリップロスを最小限に抑え、変色や微生物増殖による廃棄部分を減らすことができます。結果として歩留まり率の向上と共に、商品の鮮度や安全性も確保できるという一石二鳥の効果が期待できます。
設備の状態とメンテナンス
精肉加工に使用する設備・機器の状態は、作業効率だけでなく歩留まりにも直結します。古い設備や不十分なメンテナンス状態では、以下のような問題が生じやすくなります。
設備項目 | 問題点 |
---|---|
カッティング機器の切れ味 | 刃の鈍化による切断面の粗さと廃棄量増加 |
計量器の精度低下 | 不正確な計測による歩留まり管理の困難化 |
冷蔵・冷凍設備の性能 | 温度変動による品質劣化と廃棄量の増加 |
これらの設備を定期的に点検・メンテナンスすることは、歩留まり管理において見落とされがちですが、非常に重要な要素です。
特に刃物類は定期的な研磨・交換を行い、計量機器は定期的な校正を実施することで、安定した歩留まりの確保と作業効率の向上を同時に達成することができます。
精肉の歩留まり計算方法

精肉の歩留まりを正確に把握することは効率的な経営の基盤となります。このセクションでは基本的な計算手法と冷凍肉特有の影響を考慮した計算方法について解説します。
基本的な歩留まり率の算出
精肉の歩留まりを正確に計算するには、次の手順で行います。
- 仕入れ時の原材料重量を記録する:部分肉や枝肉の状態での正確な重量を測定
- 加工後の商品重量を測定する:販売可能な状態に加工した後の総重量を測定
- 歩留まり率を計算する:「商品重量 ÷ 原材料重量 × 100」で算出
例えば、100kgの部分肉を仕入れ、加工後に75kgの精肉が得られた場合: 75kg ÷ 100kg × 100 = 75%の歩留まり率となります。
精度の高い歩留まり管理を行うためには、部位ごと、ロットごとに記録をとり、時系列での変化を追跡することが重要です。これにより、問題点の特定や改善効果の測定が容易になります。
特に季節変動や仕入れ先による差異を把握することで、より効果的な改善策を講じることができるでしょう。
冷凍・解凍による影響の計算
冷凍肉を扱う場合は、解凍時に発生するドリップロスも計算に入れる必要があります。ドリップロスとは解凍時に肉から出る水分のことで、これも歩留まりに大きく影響します。
- 冷凍前の重量を記録する:冷凍前の生肉または部分肉の重量を測定
- 解凍後の重量を測定する:完全に解凍した状態での重量を測定
- ドリップロス率を計算する:「(冷凍前重量 – 解凍後重量) ÷ 冷凍前重量 × 100」で算出
例えば、冷凍前に50kgあった肉が解凍後に48kgになった場合: (50kg – 48kg) ÷ 50kg × 100 = 4%のドリップロス率となります。
このドリップロスも含めた総合的な歩留まり管理が、特に冷凍肉を多く扱う事業者には重要です。解凍方法の選択や温度管理の徹底によってドリップロス率を1~2%削減できれば、大量取扱いの現場では大きなコスト削減につながります。
各工程での重量変化を細かく記録し、どこでどれだけのロスが発生しているかを把握することが、効果的な改善の第一歩となるでしょう。
精肉の歩留まり改善方法

精肉の歩留まりを向上させるためには、様々なアプローチが必要です。ここでは実践的な改善方法を四つの視点から解説します。どの方法も現場での地道な取り組みが基本となりますが、継続することで大きな効果が期待できます。
部位別カット技術と下処理
肉の部位によって組織構造や脂肪分布が異なるため、それぞれに適した加工方法を採用することが歩留まり向上につながります。
部位 | 加工方法のポイント |
---|---|
ロース系 | 霜降り度合いに応じた適切な脂肪量の調整と過剰除去の回避 |
モモ・肩 | 筋膜の走行方向に沿ったカットによる効率的な筋除去 |
バラ肉 | 層状構造を見極めた必要脂肪層のみの残存処理 |
各部位の特性を理解し、それに合わせた加工技術を標準化することで、全体の歩留まり率を向上させることができます。
特に高級部位ほど丁寧な処理が求められますが、低価格部位でも適切な処理によって商品価値と歩留まりの両立が可能になります。
加工工程の最適化
加工工程の見直しも歩留まり向上に効果的です。特に以下の手順が重要となります。
- 作業手順を文書化する:最適な手順を明文化し、作業者間のばらつきを減らす
- 工程の順序を最適化する:解凍→下処理→カット→包装といった一連の流れを見直し、各段階でのロスを最小化
- 品質基準を明確化する:どの程度の脂肪や筋を除去するかの基準を明確にし、過剰なトリミングを防ぐ
また、定期的な工程分析を行い、どの段階でどの程度のロスが発生しているかを把握することで、改善すべき箇所を特定できます。工程間の連携を強化し、一貫した温度管理や品質基準を保つことで、全体としての歩留まり率向上が実現できます。
社内研修・スタッフ教育
歩留まり向上において、人材の技術レベルは大きな要素です。効果的な人材育成には複数のアプローチが有効となります。
体系的な研修プログラムにより段階的な技術向上体制を構築し、継続的に実施することが基盤となります。また熟練者の技術共有として作業の録画分析を行い、全スタッフで効率的なカット技術を共有します。
さらに定期的な技術評価として個人別歩留まり率を測定し、具体的なフィードバックを実施することで技術向上を促進できます。
技術向上は一朝一夕には実現しませんが、継続的な教育と評価の仕組みを整えることで、組織全体の歩留まり水準を徐々に高めることができます。
特に若手人材の早期戦力化と技術の標準化は、長期的な歩留まり管理の基盤となります。
具体的改善事例
精肉業界では歩留まり改善に向け、加工工程と温度管理の徹底による酸化・ドリップ抑制や、技術研修・作業標準化によるロス削減など、複数の成功事例が報告されています。
さらに目標設定と実績の「見える化」で、全体的な歩留まり率が大幅に向上したケースも見られます。これらの事例から、技術面だけでなく組織的・文化的なアプローチを含む多角的な対策が重要であるとわかります。
参考サイト:FOODTOWN マルイ食品株式会社による改善事例(食品工場で歩留まりロスを90%削減)
まとめ

精肉の歩留まり管理は、コスト削減・食品ロス削減・品質維持の三つの側面から重要な取り組みです。適切な管理により、原材料から得られる商品量が増加して原価率が低減し、廃棄量の削減で処理コストと環境負荷が軽減されます。品質の均一化と安定供給も実現できる点も見逃せません。
歩留まり向上には、カット技術、温度管理、人材教育といった総合的なアプローチが欠かせません。現状の歩留まり率を正確に把握し、改善すべき点を特定することからスタートするとよいでしょう。
日々の地道な改善活動が、最終的には収益向上と持続可能な経営につながります。精肉業界の競争環境を生き抜くためにも、歩留まり管理を経営の重要課題として位置づけ、継続的な改善に取り組むことが大切です。
精肉や生鮮業界に特化した求人を探すなら、「オイシルキャリア」がおすすめです。
業界経験者はもちろん、未経験者向けのサポートも充実。営業・事務・現場スタッフ・ドライバーなど、多彩な職種から自分に合った仕事が見つかります。
\ 生鮮業界の求人8,000件以上 /