スーパー経営者の「景況感」はなぜ悪化?節約志向とコスト高で揺れる現場のリアル

スーパー経営者の「景況感」はなぜ悪化?節約志向とコスト高で揺れる現場のリアル
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この記事の監修

監修者のアバター       葛川英雄      

水産市場の競り人、生鮮食品業界、人材業界で培った豊富な経験を持つ食のプロフェッショナル。現在は株式会社オイシルの代表取締役として、10年以上の業界経験を活かし、生鮮業界やスーパーマーケット業界の発展に貢献しています。

売上はプラスを保っているのに、現場のムードだけが急速に沈んでいく――2026年7月21日に公表された「スーパーマーケット景気動向調査」(全国スーパーマーケット協会・日本スーパーマーケット協会・オール日本スーパーマーケット協会)を見ると、そんな矛盾した状況が浮かび上がる。

2026年6月のスーパー中核店舗の景気判断DIは、現状判断が前月から5.7ポイントも低下して41.7、見通し判断も1.5ポイント低下の41.0となった。単月でのDIの5〜6ポイントの下落は小さくない振れ幅だ。何かよほど深刻な出来事が起きたのか、それとも別の理由があるのか。今回はこの「気分の悪化」の正体を、データから読み解いていきたい。

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目次

「気分」が先に壊れた月だった

まずは容疑者を絞り込むところから始めよう。景況感調査には、景気判断DIのほかに「周辺競合状況DI」という項目がある。もし近隣に強い競合店が出店してきた、あるいは価格競争が激化した、といった外部環境の変化が悪化の原因であれば、このDIも大きく崩れているはずだ。

しかし実際の数字は、現状42.5(前月比+0.3)、見通し41.7(前月比+0.6)と、ほぼ横ばい。むしろ小幅ながら改善している。つまり「競合が強くなったから」という犯人は、今回に限っては当てはまらない。

一方で、景気判断DIと並んで消費者購買意欲DIも、現状41.2(前月比-3.3)、見通し40.9(前月比-1.6)と大きく落ち込んでいる。競合環境は変わらないのに、消費者の購買意欲だけが冷え込んでいる――ここから浮かび上がるのは、「外部の脅威」ではなく「消費者の財布のひもが固くなった」という、内側から染み出すような変化だ。

しかもこれは一時的な落ち込みではない。同調査の長期トレンドを見ると、周辺地域景気判断DIは2023年に判断の分かれ目である50を突破し高水準を維持していたが、2025年に入ると現状判断・見通し判断ともに低下基調に転じ、23〜24年に見られた50近辺の水準から徐々に乖離してきた。2026年に入っても、この流れに歯止めがかかった様子はない。つまり2026年6月の悪化は、2025年からじわじわ進んできた地盤沈下の延長線上にある、根の深い変化だと見たほうがよさそうだ。

でも実際の売上は、まだ踏みとどまっている

ここでもう一つのデータを重ねてみると、さらに興味深いことが分かる。同時期に公表された「スーパーマーケット販売統計調査」(パネル270社集計)によれば、2026年6月の全店売上高は前年同月比100.9%。既存店ベースでは99.7%とわずかにマイナスに転じたものの、崩れているというほどではない。生鮮3部門合計に限れば、既存店ベースでも102.6%とむしろプラスを維持している。

つまり、経営者・現場の「気分」はここまで悪化しているのに、実際の売上はまだかろうじて踏みとどまっている。この「気分」と「実態」のギャップこそが、今回のデータがもっとも興味深い点であり、同時に危うい点でもある。気分の悪化は、いずれ実際の消費行動にも波及していくものだからだ。

正体は「値上げ疲れ」

このギャップの正体を探るために、客単価と来客数のデータを見てみよう。

  • 客単価DI:8.1(前月比-5.0だが、依然プラス圏)
  • 来客数DI:-13.2(前月比-9.2と、悪化幅が拡大)
  • 販売価格DI:16.1(前月比-1.7だが、二桁プラスを維持)

見えてくるのは、「値上げによって一品単価は保たれているが、消費者が来店頻度や買い上げ点数を自衛的に絞り込んでいる」という構図だ。値上げそのものは続いているが、それに対する消費者の側の”耐性”が薄れてきている、と言い換えてもいい。前回の記事で扱った「前年の記録的猛暑の反動」や「備蓄米特需の反動」が単発的な要因だったのに対し、この節約志向・生活防衛意識の高まりは、もっと構造的で長く続きそうな変化だ。

利益はすでに削られている

さらに深刻なのは、収益DIがついにマイナス圏に転じたことだ。

  • 収益DI:-10.5(前月比-12.5)
  • 生鮮品仕入原価DI:13.5(前月比-6.3だが依然プラス圏)
  • 食品仕入原価DI:15.7(前月比-5.1、62か月連続プラス圏)

仕入原価の伸び自体は鈍化してきているものの、依然として高止まりの状態は続いている。そこに人件費や物流費の上昇も重なり、値上げで売上をなんとか守れても、利益は着実に削られている。「売上は守れても、利益は守れない」――これが今、多くの食品スーパーが直面している現実だ。

オイシル視点:この状況は「人」にどう跳ね返るか

ここまでのデータを、採用・転職メディアの立場から読み替えてみたい。

利益が圧迫される経営環境というのは、裏を返せば「利益を作れる人材」の価値がこれまで以上に問われる局面でもある。値上げに頼らずに粗利を確保する価格・仕入戦略、原価高が続く中でも売れる商品構成を組み立てる生鮮MD力、こうしたスキルを持つバイヤーやチーフ、店長クラスの重要性は、収益DIがマイナスに転じたこの局面でむしろ増していくはずだ。

一方で、人件費の上昇はコスト増の一因でもある。各社は今後、セルフレジやデジタルプライサーといった省人化投資と、専門性の高い人材を厚遇してでも確保する投資という、方向性の異なる二つの投資判断を同時に迫られることになる。売上を伸ばすための投資と、利益を守るための投資のバランスをどう取るかが、各社の経営手腕の見せどころになるだろう。

転職やキャリアチェンジを考えている読者にとっては、「消費者の節約志向でスーパー業界は厳しい」という見方だけでなく、「経営が苦しい局面だからこそ、経験と専門性が正当に評価されやすくなっている業界」という見方もできる。特に生鮮部門の目利き力や、価格戦略に関わる経験は、業界内でのキャリアの選択肢を広げる強みになりやすい。

まとめ:気分の悪化が実需に波及するかどうかの分水嶺

今回のデータが示すのは、「消費者のマインドはすでに悪化しているが、実際の購買行動はまだかろうじて崩れていない」という、危うい均衡状態だ。この均衡がこのまま保たれるのか、それとも気分の悪化が実際の消費行動にも波及していくのか。今後数か月のデータが、その分水嶺を見極める鍵になる。

次回は、この厳しい環境の中でも堅調さを保っている生鮮3部門(青果・水産・畜産)にフォーカスし、売場・仕入れの現場で実際に何が起きているのかを掘り下げる。

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出典:全国スーパーマーケット協会・日本スーパーマーケット協会・オール日本スーパーマーケット協会「スーパーマーケット景気動向調査 2026年7月調査結果(6月実績)」「スーパーマーケット販売統計調査資料 2026年6月実績」(いずれも2026年7月21日公表)

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この記事を書いた人

オイシルメディア編集部。
”「美味しい」を身近に。”をミッションに生鮮業界、スーパーマーケット業界に関する情報を発信していきます。
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